12のエピソードの1つ1つは出来事の表層が淡白に語られているだけなのに、ガラスの板を積み重ねると深い色合いが表れるのと同じように、読み進むにつれて味わいが広がり、深まっていきます。序盤はお散歩しているようなのんびりムードにじれてしまいましたが、中盤を過ぎたあたりでふと我に返ると、登場人物たちと一緒に古道具屋の中にいました(もちろん喩えです)。
これ見よがしなところは一切無いけれど、芸格の高さを痛感します。同じようなことを試みる作家は数いれど、川上さんにはホンモノの味わいがあります。好みとか、そういうのを超えたところで。実際、短気な読者であるわたしは、この作風、好きとは言えません。
上でガラスの喩えを使いましたが、文体の味わいとしては、透明というのではなくて、風味豊かなポタージュという感じ(具が入ってなくて、とろみがあるクリームスープ)。主材料はコーンでもカボチャでもなくて、恋愛。それも軽い恋愛ではなくて、情とか業にまで入り込んでいて、ときに生々しくさえありますが、素材の持つ臭みは取り除かれています。舞台は古道具屋という設定ですが、古道具はクルトンやパセリみたいに表面に浮かんでいる程度で、もっぱら恋愛の切り口で人間模様が描かれています。モノに執着しがちな男の感性とは一線を画しているかも。
主人公=語り手=女性と(恋愛的に)からむバイト仲間タケオ。複雑にこんがらがっている人物なのだけど、川上さんのアプローチ(人物の内側には踏み込まない)だと、ちょっと無理があるかも。人物像と描かれ方のギャップが大きすぎて、もう少し踏み込んでくれないと、タケオと同性の読者としては物足りない。特に後日談的な最終話はあっけなく感じました。そこに至るまでのタケオの内面のドラマが完全スルーというのはいかがなもんでしょうか。だって、ストーリー中でも最もドラマティックな変化の1つですから。
その裏返しとして、主人公の彼に対する心情にもシンクロしきれなくて、物語としてはいくらか散漫に感じられました。

- 2006-04-30 23:16:31
- 川上弘美
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店主の中野さん、アルバイトの菅沼ヒトミ、同じくアルバイトの桐生タケオ、ときどき手伝いに来る中野さんの姉マサヨ。4人で切り回す「中野商店」は、あくまでも「古道具屋」であって、お宝を鑑定する骨董屋とは違う。
- ぱんどらの本箱
- 2007-09-11 12:54:57