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『ある編集者の生と死-安原顯氏のこと』(後編)

前編はこちら

(村上春樹本人を美化しているファンはこの記事を読まない方がいいかも・・・)

というわけで件の寄稿の中味だけど、たかだか二段組16ページの短い文章なので、何かを断定するには心もとない情報量ながら、感情的にドロドロしたものが伝わってくる。

はっきり言ってこの文章は曲者。
二人の関わりや安原顯の人となりが、小説の匠の熟練した手さばきで、才能溢れる作家と型破りな編集者の愛憎のドラマ、として描き上げられている。
一読くらいだと、巧みな語り口に乗せられてすんなりと受け容れてしまいそう。でも、何だかもやもやした感触が残る。

文章から書き手の本音を探るなら、表現(言い回し)より論理に注目すべき。特にこの書き手は日本を代表する小説家。言葉巧みなことは、芸達者な美人女優の如し。言葉のニュアンスを変幻自在に操れるはず。でも、論理は論理として提示するしかない。

この寄稿は、故人(安原顯)を悼みながら、遺憾の念を静かに噛みしめるがごとき佇まいだけど、そういう装いを振り払って論理を追いかけると、なんだか不穏。


《不穏 その1》
この寄稿は、安原顯が悪意を持って原稿を流出させたと強く推断している。漫然と読んでしまうとそんな気にさせられるけど、悪意については根拠が薄弱。
確認できている事実は、本来中央公論社が保管しているはずの原稿が高値で取引されていて、それがかつて村上春樹が安原顯に託した原稿である、ということくらい。だから、安原顯が流出させたことは間違い無いとして、悪意を裏付ける事実は無いし、この寄稿から異なる仮説を導き出すことが出来るはずだけど(過失ないしは未必の故意の線で)、一顧だにされていない。
まことしやかに故人の悪意を語り、それを嘆いてみせるのは、フェアではないと思うのだけれど・・・


《不穏 その2》
文章のあちこちに安原顯をフォローする言葉が入っていて、パッと見一方的な糾弾には見えないのだけれど、実質的には人格も仕事もほとんど否定している(誉めているのは、陰口を叩かない、ということくらいかな)。しかも、仕事に関しては、日本の編集者すべてをこき下ろすオマケつき。
被害者として感情的になるのは仕方がないとしても、何ゆえこれほどまでに攻撃的なのか?


《不穏 その3》
その2と一部重複するけれど、安原顯との交流を振り返る過程で、執拗に文壇や業界関係者を否定・攻撃している。嫌いなものは嫌いで仕方が無い。でも、日本で本を出版しているからには、意識しようとしまいとそれらから何らかの恩恵を被っているはずで、なぜこんな風ににべ無く踏みにじる必要があるのだろう?
しかも、わたしは文壇が村上春樹を冷遇しているものと考えていたけれど、この寄稿から察するに、デビュー前から彼は文壇や業界関係者を嫌っていたようで、つまり喧嘩を仕掛けたのは村上春樹の側なのかも(無意識としても)。
確かに、谷崎賞や読売文学賞の受賞作家が業界から冷遇されているとは考えにくいし、授賞されていない芥川賞にしても、デビュー1,2作が続けさまにノミネートされ、3作目以降は芥川賞の選考基準に適合しないから、村上春樹の方が芥川賞を見限ったと言えなくもない。


というわけで、論理の流れを追っていくと、この文章はドロドロとした敵意の塊で、おそらく、あちこちに挿まれている安原顯へのフォローはポーズでしかなくて、完膚なきまでに打ちのめしている。巧みに思慮深さを装っているから、第三者(わたしもそうだけど)はすんなりと流してしまうだろうけど、故人にゆかりのある人たちや業界に携わる人々の胸には刃がぐっさり、という文章だと思う。
そういう意味で巧み。屈折した巧みさだけど。
象徴的なのが「結果的に励ましてくれた」の章で、建前として感謝しながら実質あれやこれやをこき下ろしていて、読んでて気分が悪くなる。


このブログをみていただければ分かるように、わたしは村上春樹のファンで、それはこの寄稿読了後も変わらない。むしろ実像に一歩近づけたようで満足。小説とは一味違う人間臭さを垣間見たような気がする。この人が公正さとか潔さにこだわるのは、内に荒々しい妄執や瞋恚を抱えている反動かなぁ?なんて妄想を膨らませてしまう。
ちなみに、優れた芸術家が高潔だとか人格者だなんてこれっぽっちも思ってない。むしろ、旺盛な創作力のエネルギー源として、渦巻く感情の動力炉があるのは自然なこと。 上で否定的な言い回しを使ったけれど、それは本心からだけど、いただけない部分もひっくるめて楽しめればOK。
bungeishunju2.jpg
  1. 2006-07-04 08:09:51
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