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洪水はわが魂に及び (大江健三郎)

大江健三郎は学生時代に初期作品をいくつか読んだけど、言うまでもなく記憶の彼方。最近読んだのは、ここにアップしてある『万延元年のフットボール』のみ。もう一つくらい読んでみようということで、選択が適切かどうかは分からないけど、本書を手に取りました。

ストーリーとしては、知恵遅れの幼子と核シェルターで隠遁生活を送る主人公が、社会からはみ出している若者たちの集団と共同生活を始めるが、陰謀と思い込みと偶然の結果、やがて彼らは反社会化し・・・というような展開。

『万延元年のフットボール』がかなり癖っぽかったので(特に第一章)警戒しながら読み始めましたが、こちらは随分読みやすいです。少なくとも、文体への抵抗感はありません。

ただし、潤いを欠く乾いたタッチはそのままで、そのぶん抒情の表出は抑え目。文体だけのことではなくて、情緒の捉え方が素っ気無い感じ。個人的には欠点と感じます。なぜなら、現に、愛情とか友情なんかを描いている場面が味気なく感じられるから。上手いとか下手じゃなくて、作者の体質に起因しているようですが・・・

たとえば、作者本人をわかりやすく連想させる主人公の境遇とか、主人公が「樹木の魂」「鯨の魂」という訳の分からないものと交感する、といういかにもな設定とか、ストーリーの奥に仕込まれた意味を読み解けと言わんばかりの仕立てになっています。
それはそれで良いと思うのですが、ひっかかるのは、奥にある意味(作者の危機意識とか自意識とか)のほのめかし方があまりにも露骨で、そのために表のストーリーがハリボテっぽく見えてしまう点。もうちょっと表の物語と裏の意味の連携をきわどくして欲しいところ。ここまで露骨だと、こちらの意識は最初から意味の解読に向かうので、キーワードを追いかけるような味気ない読み方になってしまいます。あくまでも、わたしの場合は、ですけど。

巨匠の作品らしくスタイルとしては完成されている感じだし、キャラは立っているし、クライマックスに向けての盛り上げは堂々としているけど、上の2点のためか、心に響いてくるものは乏しかったかな。
kozuixwagatamasiixoyobi.jpg
  1. 2006-05-18 15:14:47
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