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ハリガネムシ (吉村萬壱)

『クチュクチュバーン』(別掲)はそれなりに面白く読めました。ただし、内容的には近未来SF風のパニック小説の終盤を抜き出したようなもんで、新しいとか前衛的というのではないと思います。どっちかというと身体を張ったギャグみたいなもので、そういうケレン味が面白かったし、それを最後まで読ませてしまう筆力に感心したわけです。

『クチュクチュバーン』で野放図に解き放たれていた暴力的で破滅的な衝動を、現実的な世界に生々しく落とし込んだのが『ハリガネムシ』です。
『クチュクチュバーン』とはうってかわっての正攻法のアプローチ、というかあきれるくらいに保守的で古色蒼然としたスタイル。純文学の作家としてやっていくならばこういう作品も書けることを示す必要があったとは思うけど、随分フツーになってしまいました。やっぱり芥川賞を意識した傾向と対策の結果なのでしょうね。

陰陰滅滅とした私小説的ノリといい、生々しく粘っこい心理描写といい、登場人物の心境や衝動を外的対象物(ハリガネムシとかハエとか)に表象させる古臭い手法といい、手垢にまみれた定番的アプローチ。過激な描写が目をひくと言っても、人間の暴力性や獣性を描くこと自体はいまどきありがちなわけで、取り立てて個性的とは感じませんでした。芥川賞という論述試験の模範答案みたいなもんですね。

保守的で堅実志向であっても内容が充実していれば良いわけで、「その気になればこういうのも書けるのか」と感心させられたし、けっこう引き込まれました。主人公のタガが外れてアブノーマルな世界に落ちていく描写はなかなか迫力があったし、自分自身に翻弄されることの怖さがリアルに描かれていました。

でも、個人的にはもうちょっと炸裂して欲しかった。わりと自己完結的なんですよね。純文学って自己完結的なのかもしれないけど・・・。現実の社会ではもっともっとエグイことが当たり前に起こっているわけで、手法の面で冒険しないのならば、せめてストーリーくらいははじけて欲しかったですね。
いろいろな殻を破ろうとするパワーに惹かれるわたしなのです。

本作品が芥川賞を睨んで無難にまとめた小説だとしたら、そういう呪縛から解放されるであろう次回作に期待です。
hariganemusi.jpg
  1. 2006-05-03 11:07:17
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