ぶっき Library... 海辺のカフカ (村上春樹)

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海辺のカフカ (村上春樹)

普遍的なテーマを採り上げ、メッセージ性を打ち出している点でこの作家としては思い切った新機軸と思います。
平たく言うと、従来作品は「僕のことを分かって欲しい~」的なノリでしたが、この作品は「僕、こう思うんだよね」っぽいです。

後述のようになかなか手ごわい作品ですが、生きていくために必要な強さとは人を信じて受け入れられることだし、そのための想像力を持っていることだから、自分の世界にこもったり、力でねじ伏せようとしても幸せにはなれないかもね、というメッセージさえ受け止めれば、後は読み手が好きに解釈すればいいんじゃないでしょうか。暴論かも、ですが・・・

《構成とか作法とか》
この作品では、15歳の田村カフカの凝縮された成長プロセスがつぶさに描かれています。そもそも心の成長などというものは本人が手応えとして感じるもので(「吹っ切れた」とか「気にならなくなった」とか)、自身でも分析的・段階的に説明できる代物ではありません。心理学の用語で説明することは可能でしょうが、それでは“感じ”を伝えることが出来ないし、共感を呼び込めません。それを村上氏がどう料理しているかがポイント。

村上氏はその“感じ”を表現するためにかつてなかったほどの激しさでメタファー(暗喩)と見立てと幻視っぽい描写を駆使しています。
たとえば、生きることに内在する苦しみ・痛みがギリシャ悲劇オイディプス王の物語に見立てられ、それが予言あるいは呪い(父を殺し、母・姉と交わる)として「僕」を縛る。「僕」は予言の成就を恐れて逃避するけれど、予言はメタファーという名の思い込みにおいて1つ1つ成就されていく(夢で父親を殺したと思い込み、ほぼ赤の他人を母親に見立てて性交する)。追い詰められた「僕」は、自己の内界のメタファーとしての森に入り込むが、そこで母親に見立てたほぼ赤の他人を許し受け入れることで生きる強さを身につける・・・と言う具合に(これは超ダイジェストで、実物はこの何倍も複雑怪奇)。登場人物やエピソードのすべてが象徴であり見立てでありメタファー(暗喩)です。そして、出来事には現実と想像の境界がありません。

凝りに凝っていますが、ちょっとやりすぎじゃないでしょうか。技巧的に過ぎるように感じられました。適度なメタファーは作品世界に奥行きもたらしますが、ここまで来ると読者を弄んでいるようにも感じられました。奥が深い、じゃなくて、こねくり回し過ぎ。
いずれにしても、この作品を現実的に読んでしまうとわけがわからなくなります。

迷宮化されて複雑怪奇になっているけど、作者が提示しているいくつかのルール(世の中メタファーだらけとか、想像するだけで責任が生ずるとか)に即して読む限りでは、超ダイジェストで前述した通りオチのある作品だと理解しています。

《語り口とか》
15歳の少年田村カフカによる一人称語りとナカタさんを描いた三人称語りが並行します。
語り手=主人公が15歳の少年という設定はこれまでの路線(二十代後半から三十代)から大きく外れていますが、従来作品の「僕」とのギャップはあまり感じませんでした。15歳というのは便宜上の設定なので、語り口に少年らしさを期待したら裏切られてしまいます。

三人称語りがこれに並行しています。この作家の三人称語りは珍しいのですが、このパートの主役(ナカタさん)のキャラを考えると納得の選択。『1973年のピンボール』での三人称語りの印象が芳しくなかったので懸念しましたが、この作品の三人称語りパートでは人間の内面奥深くを描く必要がないので(このパート全体がメタファーみたいなもんですから)、すんなりと読めました。

《人物の描き方》
この作品は寓話として作られているので、人物造形云々は言いっこ無しでしょう。この作品の登場人物たちは作者の分身としての観念的かつ機能としての存在。だから、現実的な人間として読んでしまうとわけがわからなくなります。

《雑感》
複数の登場人物の口を借りて作者が説教オヤジっぽく講釈を垂れることが気になりました。さしもの村上氏も、精神的な老化の兆しでしょうか・・・

それと、わたしがクラシックを聴く関係で気になったのがシューベルトのソナタやベートーヴェンの『大公』の扱い。曲名を引っ張り出すだけならともかく、作品の内容に絡ませて、「詳しくは楽曲をお聴きください」的に処理してしまうのはどんなもんでしょうか?作家も表現者なのだから、自分の言葉で同じ効果を実現して欲しかったです。

《結び》
新機軸ということもあって、諸々引っかかりつつも、全体としては興味深く読みました。成否は別として大変意欲的な作品で、旺盛な創作力に感じ入りました。
次作でどういう方向性が出てくるのか楽しみです。
umibexkafuka.jpg
  1. 2006-05-03 00:40:51
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村上春樹『海辺のカフカ』
ギリシャ悲劇、源氏物語、フランツ・カフカの不条理世界、複数の世界観をベースとし、無垢な精神を持つ老人と、その無垢さに引き込まれ救わざるを得なくなるトラック運転手のエピソードと、やや老成してはいるがこれから現実世界に立ち向かう時期をむかえようとする15歳の
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