宮部作品の中でのこの作品の位置づけはよく分かりませんが、『理由』『模倣犯』に比べてはるかに楽しめる作品でした。野球の投手じゃないけれど、力んだ全力投球よりも、力を抜き気味にしてスムーズに投げた方が球に威力が出るみたい。この作家の代表作と言えるような作品ではありませんが、エンターテイメントとしての洗練度では『理由』『模倣犯』より上と感じました。
限定された空間の中での数人の駆け引きが集中的に描かれていきます。叙述トリックになっていて、古典的な手法だしことさらに鮮やかということはありませんが、細やかな描写がすごく効果的。その場に立ち会っているかのような臨場感があって、一気に読めてしまいます。地力を感じます。
不満が無いわけではありません。
主役の刑事は別の刑事の代役として取調べに当たっていますが、この代役という設定は心理ドラマの盛り上げという点ではマイナスだと思います。メリットは感じられませんでした。
それと、大詰めのところで被疑者の心理が羽虫(蝶?)に見立てて描写されるくだりがありますが、主人公であるオヤジ刑事の視点からの描写としては乙女チックに過ぎます(乙女チックなオヤジなのだ、と言われたらそれまでですが・・・)。宮部氏が描く男性キャラに違和感を覚えることが多いのですが、この場面でも甘さを感じました。
心理ドラマなので心理描写は念入りですが、特に感心したのは・・・(以下ネタバレ)
主人公の刑事が少女を追い詰めて自白を引き出す場面で、ついに心をつかんだと思った瞬間にすれ違っていく描写。社会派ミステリーの巨匠(?)らしくリアリティを追求する姿勢と、心の機微を捉える細やかさが見事に噛み合っています。おかげで後味は若干よろしくありませんが、「うまいな〜」と唸ってしまいました。
こういうお手並みを見せられると、他で気に入らない点があったとしても敬服してしまいます。

- 2006-05-03 00:34:18
- 宮部みゆき
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