ぶっき Library... インディヴィジュアル・プロジェクション (阿部和重)

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読んだものの感想を自由に。



インディヴィジュアル・プロジェクション (阿部和重)

解説によると、タイトルの『インディヴィジュアル・プロジェクション』は、日本語に訳すと「個人的な投影」という意味らしい。ただし、"Personal"ではなく"Individual"であることに留意が必要なのか必要で無いのか・・・

読むのは楽だけど、語るとなるとなかなか厄介な作品。
東浩紀という人が文庫版の解説をやっていて、それによるとこの小説の主題は「転移的で神経症的な世界からの脱出」ないしは「多重人格的で分裂した世界の制御」であるという。

わたしは全然違う読み方をした。
「感想」と題されたエピローグを素直に読むと、解説で指摘されている通り、そこまでの部分は実はスパイ塾塾長に提出されたレポートだった、というオチになりそう。しかし、それでは芸が無さ過ぎる(笑)。「感想」の中身は、スパイ訓練生への講評とは受け取れなくて、そのように擬装されているけれど、小説の書き手としての作者に対する講評と読めてしまう。つまり、スパイ塾という虚構を使って作家阿部和重を表現しているのではないか、ということ。
ただし、この理解を「個人的な投影」というタイトルにどう結び付けるかは難しい。いや、結びつけることは出来るけど、もったいぶったタイトルゆえにいろいろな解釈が可能で、裏を返せばどう説明してもこじつけ臭くなってしまう。

「感想」より前の部分、つまり主人公の日記の部分は、ミステリー小説でおなじみの「信頼できない語り手」の手法が使われている。ただし、ミステリー小説のように読者との駆け引きとしてやっているのではなくて、主人公の度重なる錯誤によって物語がずれていく感覚を楽しむかのよう。文庫版の解説は、この錯誤に意味を見出そうとしているが、果たして一貫した意味などあるのか?

物語を意図的に破綻させていくのが、この作品あたりまでの阿部作品の特徴。ただ壊すのでも、何らかのテーマ性実現のために壊すのでもなくて、壊す行為を知的に楽しんでいるような風情がある。綻びの中に仕込まれたほのめかしを拡大解釈してテーマ性をこじつけるより、破綻のバリエーションとプロセスを楽しむのが吉かと。

ところで、わたしの読みが正しいとするならば、エピローグ「感想」から察するに、作者はこの作品に手ごたえを感じているみたい。
そして、このエピローグは群像劇『シンセミア』を予告しているように思える。うがちすぎかな?
indivisualprojection.jpg
  1. 2006-04-30 00:36:46
  2.  阿部和重
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