初めて読む佐藤友哉作品です。
個性的だけど独創性は感じられませんでした。荒削りなんだけどパワフルな一人称語りで読ませてしまうところ、壊れ気味の登場人物たち、ある兄弟を狂言回しにしてシリーズを回しているところ、用いられている叙述トリックのいずれにも先輩たちの影が差しています。しかも、文章力はかなり劣るし、粗いプロットや説得力の無いディテールには未熟さ(作家としての)を感じました。突っ込みどころ満載。
先輩たちを真似た部分をどんどん消去していくと、最後に残るのは登場人物たちが強烈に放射する自家中毒的なマイナスの感情(閉塞感、焦燥感、無力感、破局など)だと思います。この点も独創的というわけではないけれど、ここにこの作家の存在理由のようなものを感じました。ゴールに向かって駆け上っていくエネルギーではなくて、ひたすら無軌道に撒き散らされ、自滅していくエネルギー。なかなか強烈です。
プロットはゆるゆるなんだけど、場面場面で登場人物たちが発散するマイナスの感情には妙にリアリティというか生々しさがあって、それに引きずられて最後まで読み通してしまいました。ミステリーの謎解きが全面に出てくる終盤も悪くはありませんが、読み応えがあったのはそこに至るまでの部分。かなり満喫できました。
ちなみに、小説から引用するのが好きという鏡創士のキャラ設定は良しとしても、どうでもいいセリフばかり引用するのはイタイ感じでした。わざとかな?
先々楽しみな作家と感じられましたが、この作品を読む限り、ミステリー作家としての腕を磨くことよりも人間を描くことに注力したほうが良さそうな気がする。
- 2006-05-01 16:05:55
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