ぶっき Library... 2012年09月

ぶっき Library...
読んだものの感想を自由に。



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傾物語 (西尾維新)

ここまで読んだ物語シリーズの特徴の一つは、限られた数のキャラクターによって展開されていくこと。
大風呂敷な展開はあっても、物語が壮大に拡大されることはなく、内輪の顔ぶれの中でこじんまりと転がされる。
この作家には次々と登場人物を投入してくる作品があるから、作風というより、物語シリーズのコンセプトなのかもしれない。

『傾物語』は、時間旅行ありバラレルワールドありの大掛かりな仕立てになっているけれど、やっぱり物語の世界はこじんまりとしている。『ドラえもん』の劇場用映画よりずっと殻にこもった展開だ。登場人物たちはそれなりにアクティブに見えるけれど、物語の世界そのものはどこかにひきこもっているみたい。
通常であれば、広がり感の乏しさを欠点と感じるところだけど、そんなことを言っても仕方がない。

そもそもこのシリーズにおいては、現実感を上手に装えることが小説の上手さ、という価値観は通用しない。机上で想像力をこねくり回して生み出された作り話であることを隠そうとしていないというか、むしろそういうところを露出して面白がっている感じ。

しかし、そのようにして書かれた小説の中にも何かしらのリアリティがある。
何事かを面白がるということは、そこに何らかの価値基準が存在するということだろう。
また、正統を逸脱した物語だとしても、およそ創作物であればそこに意図や価値観があるはずだし、現にこの作家はある種の価値感を青臭く主張してくる(個人的に、主張の内容には興味を覚えないのだけど)。
そういうところがリアリティと感じられるのだと思う。

こういう小説の作り方は、この作家の専売特許ではないけれど、とても上手いと感じられる。奔放に小説で遊びながら、最終的に脈絡をつけてくる。ストーリーの整合性ということではなくて、コンセプトの一貫性という形で。そこで示される手腕がこのシリーズの読み応えのひとつになっている。
物語シリーズの過去の作品の中には"遊びすぎ"と言いたくなるものもあるけれど・・・

世界観の設定について釈然としないところは残るけれど、この作家の「読ませる力」に楽しませてもらいました。



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  1. 2012-09-29 22:33:54
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クドリャフカの順番 (米澤穂信)

古典部シリーズ第三弾。舞台は文化祭。

最大の新味は、前二作が主人公による語りで一貫していたのに対し、本作では古典部員4人の語りが連動して読み手を導いていくこと。読み手の立場からすると、お馴染みのキャラたちに、これまでとは違う視点で付き合うことになる。
主人公折木以外の3人のうち、キャラの濃い千反田の語りに注目したのだけど、案外と普通で残念。こちらの勝手な期待だけど。

ここでもライトなミステリが繰り広げられている。今回もミステリとしては微妙。なにより、犯人の動機と犯行手段の整合性が怪しい。謎解きの楽しみに動機が不可欠というわけではないけれど、最後に明かされる動機に説得力がないと不完全燃焼。
それと、タイミングよく解決の糸口を提供する折木・姉の使い方はご都合主義でひっかかる。前作でも、違う意味でご都合主義を覚えた。

一方、青春小説として読むと、これはなかなかの好印象。「才能」を扱っているのだけど、持たざる者サイドの里志と摩耶花の語りが小説の奥行きを生み出している。実は、事件の動機も同じような感情に根ざしていて、からめ方は上手いと感じた。

特に摩耶花の持つある種の息苦しさ、自分に多くを望んであがく息苦しさはリアルに感じられた。キャラの見せ方の上手な作家と思うけれど、そういうのとは別の意味で、ここでの摩耶花に存在感を覚えた。



  1. 2012-09-25 10:59:46
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猫物語 白 (西尾維新)

時系列で言うと「傷物語」「猫物語(黒)」「化物語」「偽物語」「傾物語」の後のエピソード。ただし、「傾物語」とはほぼ同時進行の模様。ちなみに、その「傾物語」は刊行順で言うと「猫物語(白)」の後。

シリーズの中では新機軸。これまではすべて阿良々木暦の一人称語りだったのが、本作では羽川翼が語り手に。個人的には遅く感じたくらい。「偽物語」ですでに阿良々木暦の一人称語りに限界を感じていたから。「偽物語」の冗舌・雑談調が好きな読者の見解は異なるかもしれない。

羽川翼は、作品ごとにちょっとずつ感じは異なるものの、主要人物のひとりであり、特に「傷物語」での印象は強烈だった。そんな彼女の一人称語りに期待と不安を覚えたし、内面の決着がどうつけられるか興味津々で読み始めた。

で、期待は裏切られなかった。生真面目な羽川の一人称語りのせいか、語り口に迷走感はない。むしろシリアスな空気が流れ出している。
出来事のクライマックスは格闘シーンの辺りかもしれないけれど、物語としての山場は、羽川が自分に当てた長い手紙のくだりだろう。シリーズを追いかけてきた読者には読み応えがあると思う。
単純な話なので上手さがビンビン響く感じではないけれど、この二段階の盛り上げはかなり気が利いている。

ことの原因を生育歴に求める作法は前作までに使い古されたパターンなので、新味は乏しい。しかし、好意的に読むと、高校生視点での家庭/家族をシリーズのサブテーマに据えていると考えられなくもない。深堀りはされていないけれど。

一件落着した後の羽川のキャラに注目していたけれど、これに関しては月並みな感じ。この点は、残念と言えば残念。



  1. 2012-09-15 13:53:57
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猫物語 黒 (西尾維新)

猫物語は白と黒の2巻で一括りかと思ったら、黒で一旦完結されている。
刊行順だと「化物語」「傷物語」「偽物語」の次。扱われている出来事の時系列順だと「傷物語」に次。

これの前に刊行された「偽物語」ではストーリーの面白さが大きく後退して、冗舌調とキャラ弄りに徹していた。西尾維新ファンは楽しいのかもだが、”内輪のウケ狙い”的空気が濃厚でシラケてしまった。迷いつつ、念のために本書を手に取った。

読んでみると、序盤は主人公と下の妹との会話が延々と続けられている。このノリは「偽物語」っぽい。「傷物語」での冗舌はストーリーの推進力を損なうことなく彩っていた。猫物語(黒)序盤のグダグダ会話は、ストーリー展開との関連はあるけれど、その間ストーリーの進行は停滞している。で、読みつづけるか否かを迷っている辺りで、ようやく火が入る。よかったよかった。

シリーズを追いかけてきた読者にとって、かなり気になっているはずのゴールデンウィークの事件が扱われている。期待通りなのか、期待はずれなのか、期待以上なのか、判定は人それぞれになるだろうけれど、大ハズレということはないだろう。
ただ、「化物語」「傷物語」にあった、物語の世界を構築していこうとする熱気みたいなものは薄まっている。良く言えば、自分の作り上げた世界に遊ぶような余裕を感じる。圧倒されることはないけれど、安心して楽しめた。


  1. 2012-09-13 19:59:54
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傷物語 (西尾維新)

物語シリーズの第2弾。

この作家の筆の速さは知りませんが、文体は冗舌調。溢れ出す言葉がしばしば作品世界の枠からはみ出しそうになる。いや、何度かはみ出してしまう。
こういうのは、作者の体臭が強くなりすぎるとうざくなる、わたしの場合。『傷物語』はバランスが絶妙なのではないだろうか。冗舌さが、いい感じに作品世界を彩っている。見透かすような、脱力しているような、皮肉っているような、軽薄そうな、それでいて熱い、みたいな独特の作品世界に浸ることが楽しい。
造り込みによってではなく、語り口でもって心地よい世界を生み出せるというのは才能なんでしょうね。魅力的な文体という閾を超えている感じ。

プロットの造り込みはちょっと甘いように感じられるし、本の厚みのわりに単純な物語だったりするのだけれど、語り口の楽しさとか、作者が仕掛けてくる読者との駆け引きなんかで退屈させない。こうなると、ちょっとした緩みさえ味付けの一つと思えてくる。

物語シリーズでは、作品によって主要人物のキャラが変わることがあるのだけれど、傷物語の羽川翼はなかなか強烈でいいと思う。


  1. 2012-09-09 20:32:45
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インシテミル (米澤穂信)

事前知識なしで読んでみたら、バリバリの本格ミステリだった。古典部シリーズのよう軽い読み口を期待していたので、当てが外れたわけだけど、いいペースで読み切った。

この作家さんのイメージは、スムーズで読みやすい文章と人懐っこい語り口に、ゆるくて我田引水なプロットと展開といったところ。読みやすいのだけど、「それはちょっと・・・」というひっかかりが残りがち。読んだ作品数は少ないけれど。
そのあたりを覚悟しながら読み進めたのだけれど、本格ミステリだからなのかかっちり作り込まれていて、ほとんどひっかからなかった。ほとんど・・・ということは、気になるポイントがあるにはあったのだけど、全体としては入念さへの感心が大きく上回る。なので、気になるポイントは書かないでおく。

中盤を過ぎたあたりからミステリー的にマニアックな空気がプンプンしはじめる。ミステリ展開的には、メモをとりながら読み進めないと出来事を把握できないくらいに錯綜してくる。もちろんメモなどはとらないで読み進めたから、ミステリ的な破綻があっても気がついていないはず。結局犯人はだれ?という一心で読んでたので。
そんな浅い読み方であっても、最後の最後に「ほほぅ!」と思えるくらいには楽しませてくれた。

本格ミステリとなると、仕掛けに意外性があっても筋道に縛られて進行される。また、読者に提供される視座もミステリとしての都合に制限されてしまう。そのぶん、古典部シリーズのような語り口の心地よさは後退していると感じた。そっち方面を期待して手に取るといくらか肩透かしかも。もちろん、なるべくしてそうなっているだけで、この作品の欠点ではないのだけど。

楽しませてもらったのだけど、最近、本格ミステリを読むのが面倒になってきた・・・



  1. 2012-09-07 01:10:19
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イリヤの空、UFOの夏 (秋山瑞人)

秋山瑞人作、4巻物のライトノベル。主人公は中学生。ありきたりのライトノベルとして読むとやや重たい。でも、人物設定とか序盤から中盤の展開はライトノベルの定石を踏まえているから、スカされることはないと思う。

ライトノベルの定石に則って読み手をくすぐりつつ、濃い描写でその枠を絶えず踏み越えようとするかのよう。
三人称視点ながら読者に提示される情報は制限するとか、時系列とは異なる順に場面が進められるとか、作者は積極的に駆け引きを仕掛けてくる。
ヒロイン伊里野を見舞う状況や症状は、学園ラブコメ展開の前半ですら、いくらか生々しい。
こうしたところに作者の自己主張を感じる。

3巻の半ばあたりから物語はシリアス路線に舵を切って急加速。終幕に向かって怒涛の展開。生温かくライトノベルを楽しむつもりの読者は振り落とされるかも。
読み終えてから振り返ってみると、ある種の典型的なパターンに則ったストーリー展開だけど、多弁なようで説明控え目な文体は、読んでいる最中に次の展開を容易に予測させない。そして想像力を刺激してくる。だから先が気になってどんどんページを繰ってしまう。

最終局面でのカタルシスは、気持ちいいけどやりすぎないのがいい。煽ったりしないのだけど、ポロポロと明かされる数々の事実からヒロインの切ない心情が自ずと浮かび上がってくる。思わず持っていかれてしまった。





  1. 2012-09-02 21:10:39
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