ぶっき Library... 2008年01月

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八月の路上に捨てる (伊藤 たかみ)

第135回芥川賞受賞作。

ずいぶん前に芥川賞全集をまとめ読みしたことがあって、ネットで確認したところ60年代後半から70年代の受賞作だったみたい。ぱっと思い出せるところでは庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』、村上龍『限りなく透明に近いブルー』、古井由吉『杳子』、丸谷才一『年の残り』(作品は嫌い)、青野聰『愚者の夜』(ちなみに、この作品が受賞した第81回には村上春樹『風の歌を聴け』がノミネートされていたけれど、両者の優劣はともかくとして、『愚者の夜』は受賞にふさわしい作品と思います)といったあたり。タイプは異なれど共通するのは、見知らぬ内面を疑似体験したような、圧倒的な印象を受けたこと。
このときのインパクトがわたしの芥川賞の基準点になっていて、わたしごときがとやかく言うような筋合いではないけれど、最近読んだ芥川賞受賞作品は総じて小粒に感じられる。巧拙とは別に圧倒的な感じを受けない。60~70年代にあったある種の暑苦しさが時代とともに風化しているだけなのかもしれないけれど。

そういう意味で、この『八月の路上に捨てる』は良くも悪くも期待を裏切らなかった。
主人公と同僚の日常的な仕事風景が、前景として臨場感を以って描かれる。二人のやり取りに交えて、主人公とその妻との出会い~破綻が回想される。回想の方は、地の文主体にあっさりと描かれる。ただし、最後のデートの場面には臨場感が与えられていて、作者の演出意図なのだろう。

前景である現在と回想のからめ方に工夫があるのかもしれないけれど、とにかく淡々と進んでいく。締めくくりの捨て台詞で一気に作品に陰影を与える作戦のようだけど、こちらにまで響いてこない。もともとの弾力が乏しいから、逆方向に弾いても、はかばかしい反発力が発生しないような感じ。

各場面で人物の心理の陰影は伝わってこない。作家のスタイル(淡々として素っ気ない筆致)がそのように感じさせるだけで、その奥には深い色合いがあるのかも、などと思わないでもないけれど、結局のところさほどの奥行きは無いような気がする。


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  1. 2008-01-30 01:29:01
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イン・ザ・プール (奥田英朗)

続編『空中ブランコ』を先に読んでいた。

面と向かって「読んだほうがいい?」と訊かれたらとりあえず薦めておく。よくできた娯楽系短編集だと思うから。ひねくれ者でなければ、それぞれの楽しみを見出せる本だと思う。

伊良部という奇人を狂言回しに、面白おかしく現代人の心の淀みをあぶりだす。各話の主人公たちが抱える心の問題が、良くも悪くもありのままな伊良部の生き様との対比によって浮き上がってくる。
伊良部の使い方に奥田英朗らしいうまさを感じる。伊良部の中に悩める現代人に対する作者なりの処方箋を集約しつつも、必ずしも伊良部その人を全面肯定していない。だから、作者のメッセージはわりあいはっきりしているけれど、押し付けがましさはまったく無い。このバランス感覚は素敵。

ただ、ちょっとひねくれているわたしには食い足りない。物語りは常に決められた枠の中で展開するから、何作か読むうちにまんねり感が頭をもたげてくる。伊良部の型破りさも、型にはまっている。

収録5作品は粒がそろっているけれど、一番好みなのは『フレンズ』。


  1. 2008-01-14 23:26:07
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