ぶっき Library... 2007年04月

ぶっき Library...
読んだものの感想を自由に。



死亡推定時刻 (朔立木)

この作品では、冤罪の構造を提起する、という目的意識が先行していて、「冤罪をネタにした人間ドラマ」というよりも、問題意識を結晶化させたストーリー、という印象。
警察関係者や司法関係者らのありがちな我執や保身の連鎖が冤罪を生み出す構造が、丁寧かつ分かりやすく提示されていて、説得力抜群。

ドラマとしての彫は浅い。架空の物語をリアルに語る、という意味での手練手管とか妙味はさほど感じられない。
だが、彫が浅いなりに目は行き届いているし、少なくとも余計なことをしていない。
キャラに魅力や愛嬌はないけれど、作り物っぽさやご都合主義は見当たらない。

この小説のリアリティの拠り所は、描写がもたらす生々しさというより、専門家(法律関係)としての知識・経験、そしてブレや甘さのない適確なプロット。
読者を牽引する力の源は、真摯なアプローチが生み出す求心力。といっても暑苦しさはない。「あとがき」では思い入れがあらわだけど、本編はクールで着実。

社会派ミステリーらしい素っ気の無い筆致なので、作品世界に馴染むまで多少の我慢が必要かもしれないけれど、いったん流れに乗ってしまうと、ページを捲る手が止まらなくなるかも。

“芸”の魅力を感じられなかったから、この作家に興味を持てたとは言いにくいけれど(せめて、主役の弁護士のキャラがもう少し魅力的だったらなぁ・・・)、小説の形を借りた周到な問題提起としての『死亡推定時刻』は楽しめた。
sibosuiteijikoku.jpg
オンライン書店ビーケーワン

  1. 2007-04-16 21:56:29
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明日の記憶 (荻原浩)

2004年に出版され、2005年に第2回本屋大賞第2位&第18回山本周五郎賞受賞、2006年には映画公開、ということで、荻原浩の名を全国区に押し上げた作品と言えるのか?

個人的にはデビューした頃のテイストが好きで、最近の作品には手を出していなかった。『明日の記憶』の中にも、わたしが好きだった頃の匂いは無い。
でも、筆力の充実はダイレクトに伝わってくる。若年性アルツハイマー病を題材にした、読み応えのある本格派人間ドラマ。計算が行き届いているし、腰の据わった筆致には揺るぎが無い。

話題になった本なので、発刊された頃にネットでいくつかの書評を目にしたが、結末について賛否があった。
なるほど。中盤から後半にかけての自分への信頼が足元から崩れていく恐怖感に対し、結末は甘過ぎるかもしれない。おそらく、病気との闘いに燃え尽きた後の平穏を漂わせる演出意図なのだろうけど、この作家らしい甘口の優しさが、若年性アルツハイマー病の深刻さをうやむやにしているきらいがある。


さてここで、わたし好みの展開を2パターン。

ひとつは、安部公房型シュールで哲学的な展開。若年性アルツハイマー病を、誰もが見舞われる老化→死の凝縮と捉えて、人間であることの意味と危うさをエキセントリックに問いかける。
もっとも、安部公房本人なら若年性アルツハイマー病という固有名詞を使わずに、あるのか無いのか分からない奇病を持ち出しそうだけど。

もうひとつは、東野圭吾型感動ミステリー。若年性アルツハイマー病を告知され捨て鉢になった主人公は、病気に伴う心神耗弱状態を利用して、妹の家庭を踏みにじった怨敵に恨みを晴らそうとする。しかし、病気の進行は想像以上に早く・・・みたいな展開で、緊迫感の果てにやるせなさ、痛ましさが訪れる、感動的かつ考えさせられるミステリー。

などと妄想してみたが、現実に若年性アルツハイマー病に苦しむ方々がいる以上、本来娯楽である小説での採り上げ方は難しいのかもしれない。
asita-kioku.jpg
オンライン書店ビーケーワン


  1. 2007-04-02 15:03:18
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