ぶっき Library... 2006年10月

ぶっき Library...
読んだものの感想を自由に。



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宗教が往く (松尾スズキ)

松尾スズキの2冊目の小説本にして処女長編小説。

物語としての完成度は低いけど、語り部としての圧倒的な才能が迫ってくる。特にお尻の2つの章でのドライブ感はすさまじい。この段階で物語は破綻し、作者自らそのことを宣言し、その上で畳み掛けてくる。ストーリーで読ませるとか、キャラの魅力で読ませるとかの手練手管を投げ出して、松尾スズキ本人の語る力で読み手に立ち向かってくる。創作者として、エンターティナーとしての凄まじい才能と自負と生き様。

終盤と並んで読ませるのが、二段組で64ページに及ぶ長すぎるプロローグ。自称「セリフ家」の小説に対する屈託が面白いし、俳優・タレントとして自身を売り物にしている人らしい押しの強さや開き直りは、専業作家たちの毒気を抜いてしまう。
独立した短篇小説として通用しそう。

それ以外の部分、つまり破綻を迎えるまでの本編部分は、噺家or講談師風三人称語りで、しつこい笑いやナンセンスでグロテスクな描写が延々。面白いことは面白いけれど、しつこくて、粘っこくて、濃くて、ちょっと疲れる。作者のファンとかエログロ・ナンセンス話好きでなければ、毒気にあてられてしまうかも。
インタビューによると、本作品は連載小説で、連載ごとに一山設けた結果、濃密な仕上がりになったらしい。


着手時期を基準にすると、本書は松尾スズキの初小説。すでに他の分野で一定の成功を収めている彼は、培ったノウハウを小説の分野に軟着陸させる、というような安全策を採らず、むしろ「松尾スズキが書くからには、通り一遍の小説にはならないよ」とでもいうように、強烈な自意識とかケレン味とか表現意欲をぶつけている。その結果、小説というジャンルと格闘する松尾スズキのドキュメント、とでも言いたくなるような性格を帯びていて、小説としては破綻しているけれど、小説という枠に収まらない面白さが生まれている。こういう面白さを出せるのは、松尾スズキ個人に表現者としての魅力とかカリスマ性があるということだろう。本書を読んで、それを実感した。

少なくとも、小説家松尾スズキと今後付き合うつもりの読み手には必読の書、でしょう。
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  1. 2006-10-22 21:16:29
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日曜日たち (吉田修一)

この人の本を読むのは、『パークライフ』『東京湾景』に続いて3冊目。

どれも、繊細な演出と簡潔で乾いた語り口が共通していて、似た空気を放っているけど、作者のスタンスが少しずつ違う。
芥川賞受賞作『パークライフ』は純文学風に寸止めの美学(?)。『東京湾景』は対照的にベタなメロドラマ。
さて『日曜日たち』は?

『日曜日たち』には、“日曜日”という単語で始まるタイトルの、5つの短篇が収録されている。ただし、“日曜日”に深い意味は無さそう。
各編の主人公は、生き方が定まらない20代~30代半ばの男女。作者は、日常生活の中で通り過ぎていく感覚とか感情を乾いたタッチで簡潔に描写し、それによって内面を映し出す。

変則的な連作短編集になっていて、各編は独立した別個の物語だけど、脇役として幼い兄弟がちらちらと登場する。
各編は時系列になっていて、読み進むにつれてこの兄弟の存在感が増していく。この巧妙な演出が、一冊の本としての読み応えをグンと押し上げている。うまい。

頭の2編『日曜日のエレベーター』『日曜日の被害者たち』は、純文学風というのではないけれど、微妙かつ繊細な演出で、ピントを合わせずらい。一読して「あれ!?」で、パラパラとページをめくりながら反芻するうちに「あ、こういう気分を演出しているのか」と得心。得心できると感心に移行。
この2編を読み終えたところで「面倒くさい読書になるかな?」と不安が頭をもたげるも、残る3編は分かりやすい。むしろベタなくらい。でも、繊細で品のある文章が、安っぽくしない。前述の連作の仕掛けもあって、満足のうちに読了。

よく言えば繊細、悪く言えばひ弱な作品世界だけど、センスの良さは争えない。
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  1. 2006-10-15 13:38:20
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リレキショ (中村航)

わたしにとっての初中村航作品。文藝賞受賞作品。ということは、純文学寄り、という整理か?
文藝賞のイメージに相応しく、中味も気分も若々しいけど、作者はわたしと同じ60年代生まれ。といっても69年だけど・・・

一読して「ハァ?」な作品。ストーリーを追いかけていっても、どこかにたどり着けた気がしない。
村上春樹風のメタファー小説かというと、気分的には通じるものがあるけれど、ちょっと違う。

ストーリーの剪定が独特というか極端。「僕」の内面が焦点で、事の次第の伝わりやすさを優先するなら、①かつての「僕」、②「姉」との出会い、③現在の「僕」、の3点に触れるべきところを、『リレキショ』では実質的に③のみですべてが語られる。
具体的には、“半沢良”に変身した後の「僕」のみが語られて、変身の詳しい経緯やそれ以前については、一瞬ほのめかされる程度。
ストーリーの牽引力を放棄し、表現力で勝負。作者としてはひとつのチャレンジであり自己主張なのだろう。

こういう演出法では、いかに現在の「僕」をヴィヴィッド(vivid)に描けるかがポイント、だと思うけれど、登場人物たちのキャラにも、彼らが語る事々にも触発されなかった。

過去のほぼすべてをリセットし、自分の意志で“なりたい自分”として、あるいはそれに向かって生き始めた主人公が肯定的に描かれていて、だから構想においてはなかなか前向きな小説なのだろう。でも、見る角度によっては登場人物たちの生き方や言動は逃避的、閉鎖的、防衛的。
この作品だけでは、煮詰めが足りないのか、独特すぎるのか、単にしょうもないだけなのか、断定できない。

作中のセリフを借りると、閉じているとしか言いようのない中村航ワールドだけど、それを誰かと分かち合うために、一生懸命言葉を紡いでいるのがこの作品、というところか。

語り口に独特の雰囲気があって、焼き直し感は強いけれど(ハルキチルドレン系?)、こういうのが好きな人は、言わんとするところがつかめなくても、別の楽しみ方を見出せるかも。
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  1. 2006-10-11 01:16:42
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ナラタージュ (島本理生)

この作品の終盤に、こんなくだりがある(泉が主人公=語り手で、志緒はその友人)。

ねえ、とにわかに志緒がつぶやいた。
「葉山先生って、本当は泉のことが好きなんじゃないの」
ふっと彼女のほうを見ると、彼女の背後に明るい夜の町が広がっていた。


これ以前に読んだ島本作品はわずかに2つだけど(『リトル・バイ・リトル』『生まれる森』)、それらによるわたしの島本理生観が、上の3行目の一文に集約されている。文章の淡々として静かな流れを崩さないままに、前景と背景をクロスオーバーさせて、ニュアンスを膨らませるセンスの良い文章表現。
しかし、天性と思える文章の上手さに比して、『リトル・バイ・リトル』『生まれる森』の物語は手薄で抑揚が乏しい。


そんな島本理生が、『ナラタージュ』では人物を、物語を、力いっぱい作り込んでいる。文章の淡々とした佇まいは踏襲されているけれど、言葉の心地良い流れで読み手を魅了することよりも、物語る力で読者に向かってくる。

そのチャレンジは成功しているのか?というと、開始から70%あたりまでは懐疑的だった。淡々とした歩調は、短篇~中篇ならともかく、この規模の長編では単調や弛緩に堕しかねない。
また、主人公が想いを寄せる出身高校の教師のキャラが平板で、そのために彼女の想いがリアリティを帯びてこない。主人公、ということは作者と年代の近い男性キャラ(高校生、大学生)には実体感がある。一方、一回り年上の高校教師は作り物っぽい。作者の人生経験不足なのか、このキャラを無理に美化しようとしてはずしているのか・・・

ところが、終盤に入って様相が変わる。(以下ネタバレ)
わたしはほとんど入り込めないまま終盤に差し掛かったのだけど、それでも、二人が結ばれる場面~電車のホームでの別れ~後日談としての落涙のシーンの3連発には引きずり込まれた。泣きはしなかったけれど。
徹底して女性目線な作品だけに、わたしのは感情移入ではないと思う。それとは別に、作者島本理生のクライマックスにかける気合にしびれた。気合が入っても、上滑りはなくて、言葉はしっかりと噛み締められている。どの登場人物にも入り込めていないのに、それにもかかわらず、文面から溢れ出すはりつめたような、青ざめたような抒情に飲み込まれた。凄い、凄い。たぶん、ずっと後になっても、この終盤の追い込みを忘れないと思う。

男の読者が、同性である高校教師寄りの目線から、あるいはヒロインと高校教師とに同じ距離感をもって、一種の純愛小説として読もうとすると、微妙かも。好悪はともかく、恋愛観に偏りというか思い込みを感じる。個人的には、もっぱら主人公サイドに立って、恋愛の狂おしいまでの切なさに浸る、という読み方がオススメ。
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  1. 2006-10-05 20:00:29
  2.  島本理生
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ニッポニアニッポン (阿部和重)

阿部和重の本はこれで7冊目。わたしの場合、採り上げる冊数が多いほど気に入っている、あるいは高く評価している、とは限らない。愛着から次々と手に取ることもあれば、その作家がどこに向かおうとしているのか、どんな志向の作家なのか、という好奇心から手に採ることもある。

阿部和重は比較的好きなタイプの作家で、ご本人の気性は知らないけれど、作風としての対象との距離のとり方、突き放したスタンスが思いのほかしっくりくる。
この本の前に、島本理生の『ナラタージュ』に着手したのだけど、湿度の高さと思い込みの強さにたじろいで中断。『ニッポニアニッポン』の乾いた世界で一息つけた。
自覚している以上に相性がいいのかもしれない。


ただし、この作家にはここ何作か失望させられている。
阿部和重は、たぶん1997年の『公爵夫人邸の午後のパーティ』『ヴェロニカ・ハートの幻影』あたりまでは、技巧的な冒険というか遊戯に前のめりだった。それが、1999年の『無情の世界』(『トライアングルズ』『無情の世界』『鏖(みなごろし)』)あたりから、保守的なスタイルに方向転換した。で、想像するに、本人は構造とは別の分野で冒険なり遊戯に勤しんでいるのだろうけれど、地味な作者の独り遊びの域を出ていない、と感じられる。まあ、わたしが理解ないしは感じ取れていないだけかもしれないけど・・・


能書が長くなったけど、わたしの理屈でいくと、2001年に発表された本書『ニッポニアニッポン』も保守傾向の作品、ということになる。

最初に主人公の歪んだ現在が提示され、進行につれて過去と未来が形を結んでいく。過去がとある女性との因縁、未来が朱鷺(トキ)を解放するという一種の冒険。シンプルで、ほどよく読み手をじらすので、入り口でひきこもり&ストーカーの主人公に拒否反応が出なければ、スムーズに読み進めるはず。謎めいた少女というこの作家にしては爽やかな彩(いろどり)や、主人公のキャラいじりなんかも読みやすさに貢献。

というわけで、読みやすいし、楽しめる。でも、エンタメ小説としての愉悦はほどほど。たとえば前述の少女の使い方なんて、ちょっと芸が無い感じ。
では、エンタメ小説とは違う読み方をさせる何かがこの作品にあるだろうか?たぶん無い。だから、そこそこ面白いエンタメ小説、というのが妥当なポジションかな?
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  1. 2006-10-03 19:00:58
  2.  阿部和重
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