ぶっき Library... 2006年04月

ぶっき Library...
読んだものの感想を自由に。



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古道具 中野商店 (川上弘美)

12のエピソードの1つ1つは出来事の表層が淡白に語られているだけなのに、ガラスの板を積み重ねると深い色合いが表れるのと同じように、読み進むにつれて味わいが広がり、深まっていきます。序盤はお散歩しているようなのんびりムードにじれてしまいましたが、中盤を過ぎたあたりでふと我に返ると、登場人物たちと一緒に古道具屋の中にいました(もちろん喩えです)。

これ見よがしなところは一切無いけれど、芸格の高さを痛感します。同じようなことを試みる作家は数いれど、川上さんにはホンモノの味わいがあります。好みとか、そういうのを超えたところで。実際、短気な読者であるわたしは、この作風、好きとは言えません。

上でガラスの喩えを使いましたが、文体の味わいとしては、透明というのではなくて、風味豊かなポタージュという感じ(具が入ってなくて、とろみがあるクリームスープ)。主材料はコーンでもカボチャでもなくて、恋愛。それも軽い恋愛ではなくて、情とか業にまで入り込んでいて、ときに生々しくさえありますが、素材の持つ臭みは取り除かれています。舞台は古道具屋という設定ですが、古道具はクルトンやパセリみたいに表面に浮かんでいる程度で、もっぱら恋愛の切り口で人間模様が描かれています。モノに執着しがちな男の感性とは一線を画しているかも。

主人公=語り手=女性と(恋愛的に)からむバイト仲間タケオ。複雑にこんがらがっている人物なのだけど、川上さんのアプローチ(人物の内側には踏み込まない)だと、ちょっと無理があるかも。人物像と描かれ方のギャップが大きすぎて、もう少し踏み込んでくれないと、タケオと同性の読者としては物足りない。特に後日談的な最終話はあっけなく感じました。そこに至るまでのタケオの内面のドラマが完全スルーというのはいかがなもんでしょうか。だって、ストーリー中でも最もドラマティックな変化の1つですから。
その裏返しとして、主人公の彼に対する心情にもシンクロしきれなくて、物語としてはいくらか散漫に感じられました。
hurudogunakanosyoten.jpg
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  1. 2006-04-30 23:16:31
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センセイの鞄 (川上弘美)

四十路前の女性(主人公=語り手)と30歳以上年上の恩師(センセイ)との恋が切なく描かれています。

《淡白な一人称語り》
こういう淡白な一人称語りは女流作家にありがちですが、この人のは一味違います、と言うか、かなり素晴らしいです。どこが素晴らしいと言って、セリフは片言っぽいし、地の文もごくあっさりしているのに、登場人物たちの気配がとっても雄弁なんですよ。
こういうスタイルは、直接的な描写によって提供される情報量が少ないから、往々にしてスカスカになりがちで、それを和み系の語り口ではぐらかしているケースが多いわけですが(ような気がしてます)、川上さんの文体はお手本と言いたくなるくらいに上質です。あっさりしているのに豊か。

《異色の純愛》
四十路前の女性と七十歳前後の男性の恋愛というのは、個人的にはかなり入り込みにくい設定・・・などと懸念しつつ読み始めたのですが、気持ち悪いくらいにすんなりと入り込めました(異和感ゼロではないものの・・・)。作者の巧さもさることながら、恋する気持ちに年代の違いは無いのだ、みたいな潔さがあって、映像が無いだけに、二人の心の触れ合いを読みながらしばしば彼らの年齢設定を忘れていました。ぶっちぎりの純愛に仕上がっています。小説ならでは、だと思います。

《難を言うならば・・・》
ありきたりな設定の恋愛小説ならこれでも十分なのでしょうが、超歳の差カップルという設定だけに、「センセイ」の年寄り臭さ(加齢臭とか、お肌カサカサとか・・・)をキッチリと描いて欲しかったです。そこをはしょっちゃってるので、綺麗ごとっぽさを拭いきれていません。
年寄り臭さを灰汁抜きしないで、それでもなお切ない純愛を感じさせてくれたなら、わたし的に掛け値なしの傑作と呼べたと思います(意地悪???)。
senseixkaban.jpg
  1. 2006-04-30 23:16:06
  2.  川上弘美
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AMEBIC (金原ひとみ)

笑わせてもらいました!
この主人公=語り手は、作者本人に近いと思われる、若くして物書きとして成功した女の子ですが、摂食障害で、情緒が安定していなくて、まあウザいキャラなわけですが、作者は、シリアスなだけじゃなくて、ときにはこのキャラを突き放してコミカルに笑わせてくれます。自虐系の笑いなんですが、湿った笑いじゃありません。

もっとも、この作品はコメディではなくて、情緒不安定のキリモミ感を直情的なパワーで表現しようとした、れっきとした純文学作品。本筋の方は、相変わらずのハイテンションとか、自分の表現を追及する姿勢とか、この人らしい力強さはあるものの、荒削りだし、不完全燃焼というか効果不十分という感じ。目くるめくような感覚は味わえませんでした。

主人公の歪んだキャラ(自己中で高慢)を含めて、癖が強いし、粗はたくさんあります。嫌う理由、けなす理由はふんだんにあります。たぶん、それにひっかかって笑えない読者は少なからずいるのでしょうね、というか、そっちが多数派かも。まあ、笑えるとしても、それは後半に入ってからで、短い長編とはいえ、多少の我慢が必要。
せめてもの救いは、前2作にあった猟奇やエログロが影を潜めていること。チ〇コ、マ〇コじゃくて、“陰部”と穏やかに表現しているし(笑)。

個人的には、作家としての覚醒が一段進んだことを喜ばしく感じました。
いやね、作家としての金原ひとみには、人間的な深み、みたいなものは無いと思います。まあでも、それは全然問題じゃないわけです。二十歳過ぎの作家にそんなものは求めていないし、実体験に裏付けられない、頭でっかちな深みなんか面白くないし。
深みがないから端的に語れなくて、なりふりかまわずヒステリックに自分の言葉を撒き散らす。なりふりかまっていないから、攻撃的であったり、愚かさや嫌な部分がむき出しだったり。でも、汚物にまみれながらも輝く部分があって、たとえば『AMEBIC』の可笑しさは、作者の奥底から湧き出してきたような、チャーミングで味のある笑い。

本人が制御できていない部分にこそ魅力が感じられて、そういう意味では、芥川賞受賞作家でありながら、未だ原石の状態にあるのかも。

なお、タイトルの“AMEBIC”は、アメーバーのことです。
amebic.jpg
  1. 2006-04-30 23:14:15
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蛇にピアス (金原ひとみ)

デビュー作にして芥川賞受賞作。

2作目『アッシュベイビー』を先に読んでたんだけど、『蛇にピアス』を読んでいろいろと納得。『アッシュベイビー』は言葉のパワーにはかなり感心したのだけれど、随分粗いなぁ、というのが実感でした。それに対して『蛇にピアス』は題材こそ過激だけど小説としては破綻無くまとまっている。デビュー作ということで文学者である親父さんの助言を仰ぎつつ手堅く仕上げたのが『蛇にピアス』で、一方自分らしさを荒々しく表現して見せたのが『アッシュベイビー』だったということか?

身体に穴を開けたり模様を入れたりが好きな人たちのお話です。それっぽい描写が随所にあって、登場人物たちのキャラともども激しく好き嫌いが分かれそう。

この作品のテーマであり見所はヒロイン(二十歳前の女の子)の心理描写。前半はファッションの延長みたいなノリで舌に穴開けるんだけど、後半は心労とストレスから憑かれたように舌の穴をどんどん大きくしていく。この対比によってヒロインが内に抱えるダークな気配が浮き彫りに。なかなか効果的です。
刺青に眼を描く描かないという選択を通してヒロインの心の変化を表すという小細工も、いかにも芥川賞っぽくって素敵!!!(笑)

ちなみに『アッシュベイビー』では助演の男二人の造形が不満だったけど、この作品の助演の男二人には違和感が無かった。

減点法で採点したら『蛇にピアス』の方が上かな?でも表現力の点では『アッシュベイビー』に進化の跡が認められます。

もっと破綻した作品かと思ったら、オーソドックスで手堅い純文学作品でした。
hebixpiace.jpg
  1. 2006-04-30 23:13:53
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アッシュベイビー (金原ひとみ)

キャバ嬢による怒涛の1人称語りで、実も蓋も無い言い方をすると、彼女の愛と性が露悪的にエロく、グロく語られます。キャバ嬢っていう職業的なものはさして重要ではないかな。

怒涛のようなに迫ってくる言葉の威力は凄い。文章にエネルギーとかパワーがある。で、そのエネルギーとかパワーが全開でエログロが極まったようなアクの強い描写が積み上げられていきます。
読み始めたときは「なんじゃこの世界は~」って感じだったけど、悲しいかなそんなにウブじゃなくなっていたようで、割と早い段階で慣れてしまって、その後は冷静に読めてしまった。
描写はアクが強いけど文章はしつこくないから、意外とすんなり読めるような気がしないでもない。

小説内での出来事が何でもかんでも人間の本能(欲望とか暴力性みたいな)に結び付けられて語られるから、一見リアルであったり生々しく感じられるんだけど、そういう世界に慣れちゃうとわりと物足りなかったですね~。
一方でインパクトのあるエログロをぶちかましつつ他方で主人公の孤独感とか疎外感みたいなものを描いて、併せ技でストレートでエネルギッシュだけど繊細で脆くてひたむきな若い女の子の(つうか主人公の)感覚とか感性を描き出そうというのがこの作品の狙うところだと思うんだけど、主人公の孤独感とか疎外感の描写がエログロ描写の強烈さに完全に負けちゃってるんじゃないでしょうか。主人公が自傷行為に及ぶ場面や惚れた男のことで煩悶する場面とか、機関銃のように言葉は発せられるけど上滑りしていて迫ってくるものが無かったですね。語っている主人公本人が自覚的でないという設定だろうけど、小説的にはどうにかして演出して欲しいところだと思うなぁ。
現状だとエログロの部分だけが突出しちゃってるんだと感じた。

それと、主人公が惚れる男性とか同居人の男性の人物造形がイマイチじゃなかった?特に主人公が惚れる男性の方(村野)。読んだこと無いんだけど、レディコミに登場するミステリアスないい男キャラってこんな感じ?、なんて無責任な想像してしまった。ともかくその程度の作り物めいた人物像。相方がこれだから、主人公が彼を求めて悶絶する描写が上滑りしちゃってる感じかな。読んでて切なくならなかった。

同居人が連れ込んだ赤ん坊の存在に主人公が気がつくシーンとか、惚れた男にひたすら「好きです」と訴え続ける描写はなかなかコミカルで面白かった。描写としては面白いんだけど、激烈エログロ描写とうまく折り合っていない感じ。作者はまだ自分のそういう持ち味を有効に活かしきれていないのかな、と思った。

全編にみなぎる強烈な表現意欲は凄いけど、かっこつけて言うとエンターティナーとしてはまだまだ原石だと思った。荒削りとも言うけど。
でも、こういうキャラの作家は、下手に読ませ上手になっちゃうとつまらなくなったりするのだろうか。
asshubaby.jpg
  1. 2006-04-30 23:13:26
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世界の中心で、愛をさけぶ (片山恭一)

一般論として、恋愛とか青春とか嫉妬とか怒りとかは、読者に対する“引き”がとりわけ強い感情であると思います。つまり演出がさして巧妙でなくとも読者を煽ることが可能です。
ことに純愛物は、それらしい状況とキャラさえ揃っていればあとは読者が勝手に妄想を膨らませてくれるので(人間は常に発情してますから・・・)、むしろ余計なことをして妄想を邪魔しないことの方が重要だったりします。
あ、これ全部私見ですけど(汗)。

そういう意味で『世界の中心で、愛をさけぶ』には余計と感じられる演出が少ないし、鼻につく要素(独りよがりの気取った言い回しや、テンポとリズムだけで中身の無い会話や、取って付けたような現代の若者気質など)もほとんど無いかあってもうるさく感じられない程度に収まっています。
抑制が効いていると言うよりは、素朴と言うべきかもしれませんが・・・

じゃあ読者の妄想を掻き立てるようなそれらしい状況とキャラが揃っているのかと言うと、これは読者個々人との相性なわけで、とは言えこれだけ売れたのだから触発された読者が相当数いたのでしょう。

男性であるわたしにとって妄想の引き金となるべきはヒロインのアキ。しかし、存在感が希薄だし、入れ込める場面も無くて、妄想のスイッチは入らずじまいでした。
元凶は、わたしの幸薄い恋愛経験にあると考えられます・・・

演出はシンプルなりにもう少しまとまりが欲しかった。もともと見せ場が少ない上に(これ自体は欠点とは思いませんが)、それらがバラバラで散漫になっています。
とりあえずオーストラリアをちゃんとプロットに組み込んで欲しかった。新婚旅行の予定地というだけで、死病をおしてそこに旅立とうとしたりそこで遺骨を撒かれても戸惑ってしまいます。ちゃんと伏線をはるか(ヒロインとオーストラリアの関連付けをより強固に!)、いっそのことオーストラリアは無しにしてアジサイの場面や蛍の場面を終盤に活かした方が引き締まったかも。
そうなっても泣けるとは思えませんから蛇足なんですけど・・・

嫌な感じのあざとさや独りよがりが少なくて、全体の印象は悪いものではありませんが、さりとてこの作家の別の作品に手を伸ばしてみようという気持ちにはなりませんでした。
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  1. 2006-04-30 18:13:36
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六〇〇〇度の愛 (鹿島田真希)

《能書》
他人を愛するには自分が確立されていることが前提で、自分が確立できているとは社会的経済的に自立できていることではなくて、対面している状況で相手に依存したり引きずられたりしない心の状態が確立されていること(ひとまずそういうことにしといてください)。基本的に幼児期は相手に依存したり引きずられたりするわけで、つまり人生の出発時点では自分は確立されていないわけで、成長していく中で自分を確立していくことになりますが、失敗してしまう人は少なからずいて(本人のせいとは限らないのだけど)、それを扱った小説もまた少なからずあります(限られた経験上ですが)。
この小説もその一つと言えそうで、子供の頃の家庭環境から“愛”を実感できなくなっている主婦が、長崎での青年との出会いを通して“愛”に目覚めていきます。

《感想》
見所(?)は執拗なまでの心理描写。三人称語りなのですが、基本的に主人公目線で一貫していて、その内面変化が、「」無しで地の文に埋め込まれた会話とモノローグを軸に進められます。暗喩的に原爆ネタ、キリスト教&教会ネタなどが絡められるのが個性的ですが、もっとも原爆ネタについては、なんで原爆?みたいな違和感が拭えませんでした。
それほど面白い話ではないし(笑)、陰鬱でウジウジとしたトーンに貫かれていて、文章もあんまり洗練されていなくて、それなのに最後まできっちり読めたのは、あまり長い作品ではなかったこともあるけれど、語り口の一途な迫力によるものと思います。

しかしドラマとしては今ひとつパッとしません。理由はハッキリしていて、主人公の覚醒の瞬間が地味過ぎて効果が乏しいし、覚醒前後でトーンが同じなんです。極端にトーンが変わると白々しくなってしまうかもしれませんが、こういうテーマを選ぶ以上それをしつつ自然に読ませて欲しかった。ホッとするような安らいだ気分とか陽だまりの中で身体を伸ばすときみたいな解放感とか、なんかあると思うんですよね。陰鬱なトーンから抜け出せないということは、表現力の限界なのか、ひょっとしたら作者自身はまだ自分の問題から脱却し切れていないのかも。

ついでに触れておくと、主人公が出会った青年は、主人公の覚醒を引き出すために狂言回し的存在だから止むを得ないかもしれないけれど、芯が感じられないキャラでした。必ずしも作品の弱点にはなっていないかも、だけど。
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  1. 2006-04-30 18:12:18
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東京ゲスト・ハウス (角田光代)

ネタバレしてます。

わたしにとっては2作目の角田作品です。

根無し草のように世界を放浪する日本人たちが集う一軒家を舞台に、「ぼく」の内的なドラマが描かれています。
精神的な辛くなると安易に逃げ出したり己を偽ってしまう自分に気づき、自分に向き合うための一歩を踏み出す、というところまでが描かれていて、具体的には放置していた恋人「マリコ」との和解という結末を迎えます。

「ぼく」の内的なドラマはとてもシンプルで分かりやすいのですが、結末には釈然としないものが残りました。といっても、作品の欠点とかじゃなくて見解の相違です。

というのは、ここで描かれている「ぼく」を含めた根無し草的連中は、普通の旅行好きではなくて日常の退屈さやわずらわしさに耐えられない人々。長い目でみたら「ぼく」の気づきはこれの克服につながるかもしれないけど、現実的にはかなり望み薄。
だから、根無し草的なキャラでは無さそうな「マリコ」にとっては、「ぼく」とよりを戻すことがハッピーエンドとはとても思えないのです。「マリコ」のことを考えると「ぼく」はさらに二皮も三皮もむけなきゃいけなくて、もっともっと作者に鍛えて欲しかった。この結末は「ぼく」を甘やかしたぬるま湯に見えてしまいました。

でも、「マリコ」自身も同じく女性である作者もそれで良しとしているのだから、わたしが男の責任とか甲斐性みたいなものにこだわり過ぎているのかもしれませんね・・・
作者の角田さんは男に寛容なのかな。それとも多くを期待していないのかな。

『東京ゲスト・ハウス』→『エコノミカル・パレス』(別掲)の順に読むとシニカルで面白いかも。
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  1. 2006-04-30 18:08:14
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エコノミカル・パレス (角田光代)

もともと怠惰な人間ではないけれど、形のない夢を追いかけて20代を過ごし、30代でどんづまり状況に直面してようやく後悔し始めたけど、生き方を清算しようとする発想や気力はなくて、希望を持てない人間関係にウンザリしながらもそれから離れられなくて、だんだん堕ちていくことに気がつきながらも感覚が麻痺してしまい、最後は・・・な女性が一人称語りでリアルに描かれています。

女性作家による女性の一人称語りには苦手意識があります。一つの気分とか感情に対する集中力や執着力の強さに耐えられなくなることが間々あります。男だからそう感じるのか、わたし固有の感じ方なのかは不明ですけど。
そんなわけで、不安を感じつつも本の薄さに希望を託して読み始めたのですが、突き放したような淡々とした語り口のせいかサクサクと読めてしまいました。

心の内側ではいろんなものが渦巻いていそうだけど、そういうドロドロした部分を直視しないで、出来事だけが淡々と語られています。男性作家が描く女性とは一線を画した生々しい女性像ですが、突き放したような語り口がわたしに合っているようで、妙に共感できてしまいました。性別は違うし、主人公みたいな生き方はしていないのに、なぜか「そういうのって分かる気がする・・・」と何度も感じてしまいました。喩えるならば、女性と差しで飲みに行ったら、身の上話とか愚痴になってきて「まいったなぁ」って感じだったけど、聞いているうちにだんだん引き込まれてしまった、みたいな感覚です(笑)。
読者が女性だと、感じ方が全然違ったものになりそうですが・・・

ところで、この語り口は倦怠感とか投げやりな気分の演出につながっています。本来の効能はこっちなんでしょうね。

この作家の他の作品を読んでみようと思えたので、思わぬ収穫でした。
economicalpalace.jpg
  1. 2006-04-30 18:07:48
  2.  角田光代
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ワイルド・ソウル (垣根涼介)

この作家の作品は4つ目ですが、これまで読んだ3作品とは桁違いの力作でした。

戦後日本の移民政策を糾弾しているので、社会派小説ということになりそうですが、確かに前半はそれっぽい重厚さがありますが、後半に入ると、他の作品に比べれば腰の据わった筆致ながら、この作家らしい軽快感やスピード感が強まって、ラストはなかなか爽やかです。

移民の艱難辛苦が重厚かつスケール豊か描き出される前半は、面白いかどうかは別にして手応えがあります。力の入りようがダイレクトに伝わってきます。こういうのも書けるのかと感心しました。
それで、ついつい圧倒的なクライマックスを期待してしまうのですが、残念ながら圧倒的と言えるほどには盛り上がりませんでした。
最大の原因は、移民政策の犠牲者たちが日本政府への報復を図るのですが、この肝心の報復がかなりしょぼい。また、報復が順調に進み過ぎてドキドキハラハラが乏しい。最大のピンチが色恋沙汰というのは・・・
また、敵役が漠然としていて対立の構図が不鮮明なのもマイナスです。報復の対象は日本政府ということで、大掛かりではあるものの、的が絞られず、敵方の顔が見えてきません。工夫の余地がありそう。

『ワイルド・ソウル』に限らず、この作家は感情や本能むき出しの生々しい描写を嫌うようだし(心理描写が浅いわけではない)、わりにスイスイと事を進めてしまいがちなので(ハラハラした記憶がありません)、テンションが上がりきらないことが多いです。

もう一押し二押し欲しいけど、この作家の筆力の高さを見せ付ける作品であることは間違いないです。
wildsoul.jpg
  1. 2006-04-30 18:06:54
  2.  垣根涼介
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クレイジーヘヴン (垣根涼介)

これ以前に読んだ2作品でも屈託のある人物像を扱っていたけど、必ずしも内面のドラマがメインではなかった。『クレイジーヘヴン』では主役二人の内面のドラマが前面に出て、バイオレンスとかアクションとかミステリーが添え物になっている。そういう意味では既読の2作品とは毛色が違うけれど、薄味であっさりとしたテイストは同じ。

主役二人の内面が丁寧な手つきで描かれているのだけれど、あっさりとした持ち味が裏目に出て内面のドラマとしては手応えが弱い。内面のドラマとするならば、地の文での説明的な心理描写は抑えて、仕草とか言葉の端々から真情が零れ落ちる、みたいな腰の据わった演出が欲しい。無駄口が少ない作家だから説明調が鼻につくことは無いけれど、状況に語らせる演出法になってないから言葉が走ってしまう。性描写が入れば生々しくなるというもんではないし。バイオレンスとかアクションとかミステリーならこれでもいいのだろうけれど・・・

スタイル面で違和感はあったけど、心理の掘り下げは丁寧だし説得力がある。
そしてひっかかりなくスイスイと読める美点はここでも健在。
crazyheaven.jpg
  1. 2006-04-30 18:06:31
  2.  垣根涼介
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午前三時のルースター (垣根涼介)

父親探しのためにベトナムに旅立つ少年とこれに同行した主人公が意外な事実にたどり着きます。

とにかく読みやすい。すいすい読めてしまいます。退屈しないし、不快感を覚える演出・描写はほとんどありません。そのぶんインパクトも軽めですが・・・

物語の舞台や登場人物たちは普段お目にかかれないような興味深い設定になっていますが、こういう小説にありがちな長ったらしい状況説明はなくて、ストーリーを追いながら自然に状況を飲み込むことができます。

意外性はあるし陰謀やら愛憎やらも一通り盛り込まれていますが、主人公たちの捜索がサクサク進捗するのと、緊迫感を煽るような描写が無いためにすべるように進行します。インパクトとしては軽量級で、欠点とみるか個性と見るかは受け手次第でしょう。
個人的には、目配りは行き届いているし、気軽に読める娯楽小説としてはアリだと思います。

この作家さんは軽量級のテクニシャンってところでしょうか?
gozensanjixrustar.jpg
  1. 2006-04-30 18:06:07
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サウダージ (垣根涼介)

読み終わってから知ったのですが『ヒートアイランド』『ギャングスターレッスン』の続編だったらしい。読み終わっても気づかなかったけど(笑)。

帰化していた南米から日本にやってきた一匹狼の犯罪者と、凄腕の強盗団の物語。

すいすい読めちゃいました。夏の素麺みたいにツルツルーっと。
そのぶん軽いですけどね。
一匹狼の犯罪者はかなりえぐい生い立ちのはずなんだけど、読んでてそんなに重くないし。
強盗団のメンバーもハードな設定のわりに行動は牧歌的。彼らがやらかす強奪も肩透かしなくらいあっさり成功しちゃうし、その後に待ち受けているエンディング(=一匹狼のことです)も「ハァッ!?」って感じ。
でも、こんだけ読みやすかったら軽くてもいいんじゃないでしょうか。なかなか快適なノド越しでしたよ。

この作品の見所は南米からの出稼ぎ娼婦DD。滅茶苦茶キャラが立ってます。片言の日本語も楽しいし。クライマックスの緊迫感も彼女のキャラがあってこそ。
saudarge.jpg
  1. 2006-04-30 18:05:46
  2.  垣根涼介
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チーム・バチスタの栄光 (海堂尊)

珍しくバリバリの新刊。巷の評判以外に読みたい理由があったんです。
この作品で扱われる高難度の心臓手術、通称バチスタ手術。かつてNHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX』で、日本初のバチスタ手術が採り上げられました。調べてみたら、『奇跡の心臓手術に挑む』の回。一度は失敗しながら、医師生命を賭して二度目の手術に臨む心臓外科医の姿に、ボロボロ泣きました。
『チーム・バチスタの栄光』はこの医師とは無関係のミステリー小説ですが、“バチスタ”という単語に反応してしまいました。

さて本題。

この作家のデビュー作です。大学病院を舞台にしたミステリー。

まあ、何と言いましょうか、小説家にとって魅力的なキャラを創れるというのは大きな武器だなぁ、とあらためて痛感。
ミステリーとしては謎解きが安易だったり、真相にたどり着くプロセスがあっさりしすぎていたりなんですが、キャラたちの存在感とスリリングな駆け引き・対決のおかげで、緩んだ感じはほとんどないどころか、物語の行方から眼が離せないんですね。首を捻りたくなるところがあるにはあるんですが、先の展開が気になって、どんどん読まされてしまいます。
計算しつくされた緻密なプロット、というのも楽しいけど、魅力的なキャラは、そういう計算とかテクニックを圧倒してしまうんですね、少なくとも読んでいる間は。

といっても、ことさらに粗いとか未完成ということではありません。気になるところはいくつかありましたが、新人の作とは思えない充実感です。大学病院という独特の世界が分かりやすく&面白く描かれていたり(型破りな医師による、ハードボイルド風語り口がなかなか)、現代医療に対する問題意識が盛り込まれていたりと、あちこちに目配りが利いています。

いずれにしても、キャラクターをハンドリングする能力だけなら、既に多くの諸先輩作家たちを凌駕しているのではないでしょうか。というか、才能なんでしょうね。才能ありますよね、この人。
キャラというものはとかくマンネリ化しがちですが、まだ引き出しがありそうなので(?)、今後の活躍に期待。
teambatistaxeiko.jpg
  1. 2006-04-30 18:05:05
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木曜組曲 (恩田陸)

この作家の作品を読むのは別掲の『ドミノ』に次ぐ2作目。

自殺とされた女流作家の死の真相がゆかりのある5人の女性たちによって明らかにされます。物語のほとんどは件の女流作家が生前暮らしていた屋敷内で進行し、5人の女性たちはいずれも探偵でもあり容疑者でもあるという設定です。ミステリーとしても心理ドラマとしても楽しめるという心憎い設定・演出がなされています。

三人称語りですが、語りの視点が変幻自在に移り変わります。5人と等間隔に距離を置くのでも、そのうちの誰かに重点を置くのでもありません。場面ごとに視点が据えられる人物がけっこう小刻みに入れ替わります。心理ドラマの演出としては巧妙ですが、視点がコロコロ変わると読者は物語の世界に取っ掛かりにくくなるのでリスキーです。敢えてこういう演出を選択したのは腕に自信があるからでしょう。後に『ドミノ』を書き上げる作家だけあって、読み初めこそ少し戸惑いましたが、すぐに気にならなくなりました。

人物造形の手際が良くて、5人の女性たちはさして癖の強いキャラではありませんしむしろ全員が同性の同業者という意味では似通っているはずですが、キャラの違いが明確に描き分けられていてそれぞれの個性が自然に頭に入ってきました。

ストーリー展開には駆け引きの面白さがふんだんに盛り込まれ、そこに謎解きの面白さで程好く味付けされています。臨場感があって一気に読まされてしまいました。

強烈な個性はありませんが、この手の作品に求められるいろいろな要素にキッチリ対応されていて、腕のいいプロフェッショナルの仕事と感じました。
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  1. 2006-04-30 12:11:44
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ドミノ (恩田陸)

主役は設定されていなくて、28人+αの人物をめまぐるしく描きわけながら、スリリングなクライマックスになだれ込んでいくスラップスティック・コメディです。長編としては特別分厚い本ではなく、小気味良いテンポで視点が切り替わっていきます。
これだけ登場人物がいると全部は覚えきれないので、序盤はイラスト付の人物紹介を参照しながらでしたが、途中からは不要になりました。キャラ設定が明解であるのと、クライマックスに向かって複数の流れが分かりやすく整理されているのとで、意外にもまったく混乱することなく読めました。

文章も描写も小気味よく簡潔。作品に相応しいスピード感があります。

“お約束”的な展開が随所に見られます。また、各登場人物もあっさりと類型的に扱われています。しかし、この作品では細かいことは言いっこなしでしょう。コミカルな笑いとジェットコースターのようなスリリングな興奮を演出することに徹しています。そんな中では、女優志望の二人の少女の心の触れ合いが一服の清涼剤でした。作者の器用さ上手さを堪能できました。
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  1. 2006-04-30 12:11:14
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屍鬼 (小野不由美)

これは大作です。かなり長いです。描かれているのは、特定の場所で限られた期間に起こった出来事。なぜこんなに長いかというと、たとえば「村人たちの間で、伝染病の疑いがささやかれ始めた」の一文で済ますことができる局面で、実際に村人たちがささやきあっている複数の場面を1つ1つ丁寧に描写する、というようなことを作者がやっているからです。また、物語に深みを加えるべく登場人物の僧侶兼作家の心理描写や執筆中の小説の引用にかなりの紙数が割かれています。
やりすぎというか長すぎると思います。とくに事件が展開し始めるまでの前置き。しかし、これはこの作家の果敢なチャレンジの結果であるし、そのチャレンジはそれなりに実を結んでいます。だから、好意的に評価したいと思います。繰り返し巻き返し使われた古典的な題材をどう料理するか。小野氏は、作者による誘導の気配を可能な限り排除し、人物や出来事の描写を積み重ねることによって、最大限に臨場感を演出しようとしたのでしょう。このアプローチは、手間がかかるしリスクも非常に大きい。その敢闘精神に敬意を感じますし、狙い通りの効果が上がっているのはおみごと。臨場感たっぷりです。

リスクが大きいアプローチであると前述しましたが、やはり多少足をとられているように感じます。たとえば、村への汚染が進む過程で、果断であるはずの医師が、真相に気づいていたにもかかわらず無策に過ぎた点。また、僧侶の言動には全般的に違和感がありましたが(作中小説は退屈でした)、とくにあの結末では(彼自身の抱える)問題を先送りしただけなので、小説の幕引きとしては中途半端。登場人物も作者も感傷に流れているような感じで、この大作にはそぐわない気がしました。さらに、あれだけ綿密な侵略計画を立て、非情さで組織を引き締めていた敵の親玉の終盤の体たらくも説得力を感じませんでした。エンディングを意識してのことでしょうが、不自然に感じました。

長大かつチャレンジングな作品だけに傷はいくつかありますが、冒頭の百数十ページ(単行本)をのぞけば、読者の気を逸らさず最後まで読ませる筆力は素晴らしいと思います。ことに後半四分の一の怒涛の展開は読み応えがあります。
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  1. 2006-04-30 12:10:50
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暗いところで待ち合わせ (乙一)

短編集が多いのでこの作家の真骨頂は短編にあるのかもしれませんが、わたしは短編が好きではないので、この長編でこの作家を知りました。

感心したのは二人の主人公の心理描写。真のドラマは二人の内面で進行します。古典的な手法ながら簡単ではないと思います。この作家はそれを天性のものと思える語り口でやり遂げています。内面の変化が静かだけどドラマティックに描かれています。感情移入するまでには至らなかったものの(十代の頃に読んだら違っていたかも)、すっかり引き込まれてしまいました。

作品の構成上ある程度止むを得ないとは言え、主要な脇役の人物造形と、彼らと主人公たちとの交流の描写は手薄に感じられました。殺意にせよ友情にせよ、そうした感情を抱くに至ったプロセスがト書き風にあっさりと紹介されているだけなので、物語に広がりが出てきません。特にヒロインの友人の人物造形は、役割の大きさに比して手薄に感じられました。ここが決まれば、感動はさらに深いものになったと思います。
このことも含めて、緻密な計算に基づくというよりも、作者の鋭敏な感性と天性と思える語り口に依って立つ作品と感じました。そういう意味では短編っぽいのかもしれません(緻密な計算に基づく短編の存在を否定する趣旨ではありません)。わたしとしては、この持ち味を残したままで、さらに入念な作り込みと手ごたえが欲しいと感じました。

現状でもかなり楽しめました。既に勝ちパターンを確立している作家だと感じました。ただ、本格的な長編小説としては手薄な印象でした。
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  1. 2006-04-30 12:10:02
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空中ブランコ (奥田英朗)

ヒューマン系コメディ短編集です。5編収録。
型破りな精神科医伊良部が狂言回しとなって、各編ごとに心因性の悩みを抱えた人物が登場。ヒーロー特撮物や時代劇みたいに、展開は完全にパターン化されていて、

悩みの自覚

伊良部が「いらっしゃーい」と甲高い声で迎える

病状に関係なくセクシー看護婦がビタミン注射
その様子に食い入る伊良部

患者は退きつつも伊良部のペースに巻き込まれる

伊良部が相手の生活(主に職場)に飛び込んで天真爛漫に振舞う

そんな伊良部に振り回されるうちに、いつしか・・・

原則的に各編の差異は患者の職業と症状くらいなので、2~3編で飽きそうなもんですが、そんなことはなくて、退屈することなく5編を読み切れました。職人的な上手さ!面白さも、いい話っぽさもほどほどですが、平均値が高くて粒が揃ってます。
自覚的にパターン化しているのでしょうから、ある意味自信の表れか?

この本に限った話をすると、5編のうち伊良部の同窓生が患者になる『義父のヅラ』には若干の+αがあるものの、あまりにもパターンが出来上がっていて、伊良部のキャラ的魅力の点では物足りなかった。ただし、シリーズ物なので、主役のキャラについてこれ一冊ではどうこう言えないから、刊行順に『イン・ザ・プール』から手を付けたほうが良かったのかも・・・

それにしても、『最悪』(別掲)みたいな作品が書けて、かつこういう作品も上手いとなると、この作家は懐がかなり深そう。
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  1. 2006-04-30 12:09:11
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最悪 (奥田英朗)

三人称語りで人間を外側から(社会的背景、境遇、立場、生活etc)描き出していくスタイルですが、精緻で安定した筆致に目を瞠らされます。デビュー2作目にして実力派中堅作家の作と見まごう充実感。
ガチガチに作り込まれているので作品世界に馴染むまでは若干抵抗感を覚えましたが、ペースがつかめるとぐんぐんと引き込まれました(個人的な好みとしてはもう少し引き締まっていた方がありがたいのですが・・・)。

特に感心したのは、語り口自体は一貫してハードでシリアスなんですが、人間の滑稽さとかペーソス(どういう意味だっけ?)みたいなものが自然な感じで(=リアリティを崩さずに)ユーモアにつながっていること。人物造形力の裏付けがないとできない芸当だと思います。笑いの程度は「クスリ」「ニヤリ」止まりですが、緊張感を適度に緩和してくれます。
ちなみに、いかにもなウケ狙いもスベッていなければ大好きです。

こういう「ためて、ためて、最後にドーン!」みたいな作品は、終盤の弾け方と落とし方(締めくくり方)に注目です。弾け方はできる限り派手に意表を突いて欲しいのですが、落としどころを誤るとリアリティが損なわれてしまいます。
個人的には戸梶圭太氏の落とし方が気に入っています(読んだのは2作品ですが・・・)。スッキリ感と「世の中そんなに甘くないな」みたいなリアリティのバランスが絶妙。
奥田氏の手並みはというと、リアリティが優先されています。最悪の状態から解き放たれた開放感はあるけれど、吹っ切らせるほどには登場人物を甘やかしていません。スタイルとしては一貫しているけど、序盤から中盤にかけて重たい展開が続くだけに、もっとスカッとした気分を味わいたかったな・・・
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  1. 2006-04-30 12:08:48
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モーダルな事象 (奥泉光)

純文学並に人間描写にこだわった娯楽作品、というのがわたしのツボなんですが、こういうスタイルは意外と少ないようです。奥泉光氏はその数少ない例外。
文学的にはマニアックなんだけど、内にこもっていなくて、この人なりに幅広い読者を楽しませようとする意志が感じられます。そして、練り込まれた文章や作り込まれたディテールはワンランク上の上質感。ことに、この作品では楽しみながら作り込んでいる様が伝わってきます。

ただし物語の展開にはやや不満。
この作品は盛りだくさんです。基本としてのミステリーに加えて(ちなみに文芸春秋「本格ミステリー・マスターズ」の一冊です)、SFとかオカルトっぽい要素があったり、探偵役の元夫婦の気になる関係に、事件に巻き込まれた助教授のダメ男振り、大学の風刺的な描き方も面白いし、さらにお得意の幻覚的な演出が駆使されています。
これだけいろいろ盛り込めば奇想天外に展開しそうなものだけど、物語の展開はかなり安全運転。そして、いろんな要素の相乗効果が今ひとつ。ミステリー小説的な意味合いでは先の展開が気になるけれど、「この小説、どうなっちゃうんだろう!?」みたいなワクワク感が乏しい。
たとえば、SFとかオカルト的な演出は彩りに止まっていて、もともとの設定以上には広がっていかない。探偵役の元夫婦は情報収集するだけで、これといえるような冒険が無い。おまけに、英国かぶれの元鬱病患者という夫のキャラ設定はストーリー上まったく活かされていない。また、遺稿の小説が大ベストセラーになるプロセスはもっと盛り上げられたはず。ミステリーとしても、つまらなくはないものの、サプライズは無かった。
ご本人はハメをはずしたつもりかもだけど、小技の面白さに終始している。大技でビックリさせて欲しかった。

楽しめたのは事件に巻き込まれた助教授のパート。屈折したキャラの面白さはかなりのものだし、自分を乗越えてしまうラストは気持ちよかった。

もしも小説が工芸品であればこの洗練と作りの良さは決定的な魅力になるかもしれないが、小説は小説なわけで、だから読者によって判断が分かれそう。

いろいろ注文を付けたけど、作風はわりと好きです。
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  1. 2006-04-30 12:07:40
  2.  奧泉光
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プラトン学園 (奧泉光)

バーチャルリアリティを使った迷宮小説とでも呼んだらいいのでしょうか。中盤あたりまでは、孤島の学園を舞台にしたミステリ乃至は倉橋由美子氏あたりが得意とする不条理系の作品かと推測しましたが、奥泉氏の企みは別のところにありました。すべてはそのための仕掛けに過ぎなかったようです。

作者の仕掛けに多少幻惑されて、その狙いに気がついたときには「なるほど」と得心したものの、手並み鮮やかとは感じられませんでした。読者を混乱させてから作者の企みが明らかになっていく過程が淡々と進行しすぎなんですね。ここではガンガンまくって欲しかった。だから、作者の企みに気がついてもガーンとなれませんでした。

人物造形は手堅くて上手いのですが、こういう超現実的な世界を描くなら、もっとはじけた設定にしたほうが効果的だったのではないでしょうか。奥泉氏なりには崩しているのかもしれませんが、かなり地味に感じられました。この点も、前述のパンチ不足に影響しているかも。

不満を並べ立ててしまいましたが、現実と幻想が交錯するっぽい世界を気軽に楽しみたい方にはお勧めします。文体に凝ることが多いこの作家の作品としてはすごくプレーンな文章ですし、展開にもよどみがありません。一気に読めました。練れた巧さと安定感は抜きん出ていると思います。最終的には不完全燃焼でしたが、それに至る過程では幻惑されることの心地良さを楽しめました。

奥泉ブランドの作品としては軽すぎて物足りないかもしれないけど、軽めのエンタメ小説のつもりで手に取ればそこそこ楽しめると思います。
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  1. 2006-04-30 12:07:16
  2.  奧泉光
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新・地底旅行 (奥泉光)

明治時代に舞台を設定した冒険小説。この作家らしい文体のこだわりに文芸の香りは漂いますが、中味は純然たるファンタジーです。

本作でもこの作家のマニアックと言いたいほどの文体や時代性へのこだわりは発揮されています。こだわりの強さゆえにその世界に馴染むまでに時間がかかることが多々ありますが、純然たる冒険ファンタジーである本作では難なく馴染むことができました。一旦馴染んでしまえば独自の世界に遊べます。

登場人物たちは、いかにも冒険ファンタジーらしくデフォルメされていますが、丁寧に造形されていてそれぞれに存在感があります。キャラはこの手の小説らしい類型的な設定ですが、明治時代の日本が舞台なので新味を感じました。特に、語り手を勤める主人公の理屈っぽくて腰抜けだけど自分なりに頑張る人物像は、地味ながら微笑ましく感じました。
この主人公の語り口のおかげで全編軽妙でユーモラスな気分に支配されていますが、中盤での進退窮まったかに思える場面では悲愴感が、終盤にはスリリングな緊張感がというように、場面に応じた気分の盛り上げも決まっています。読み始めてまもなく、登場人物たちが繰り広げる物語の世界に引き込まれてしまいました。
作者の練れた筆致に安心して浸れました。

ストーリー展開には欲求不満が残りました。序盤はやや堅実に過ぎると感じましたがそれなりに楽しめましたし、物語が動き始めた中盤では期待が高まりました。しかし、後半は、息もつかせぬ展開を楽しめたものの、ストーリーとしては落としきっていない感じで不完全燃焼。あとがきにもあるように作者は続編を希望しているようなので、敢えてオチをつけなかった部分もあるのかもしれません。
続編が出るならぜひ読みたいです。
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  1. 2006-04-30 12:06:56
  2.  奧泉光
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僕たちの戦争 (荻原浩)

奇しくもタイムスリップ物が連続しました。現代の若者と太平洋戦争当時の若者がタイムスリップして、生きる時代が入れ替わります。

現代と太平洋戦争当時が交互に描かれますが、どちらも活き活きと描かれていて、戦争を扱った小説にしては随分とっつきやすいです。

時代感覚のズレが巧みに笑いにつなげられていて、何度も笑わされました。特に、現代の若者のカタカナ言葉が誤解されたまま会話が成立したり、戦時下からやってきた若者が現代日本の状況に混乱するくだりは気が利いています。
荻原氏はストーリーの自然な流れの中から笑いを引き出すことの達人ですが、そのぶん笑いが穏当になりがち。でもこの作品ではタイムスリップという思い切った設定が奏功したのか、しっかり楽しめました。

この作家にしばしば感じる不満はドライブ感の弱さ。自然で手堅いストーリー展開を旨としているようなので破綻は少ないのですが、それだけに盛り上げが手ぬるくなりがち。残念ながら本作でもそれを感じました。中盤まではほとんど不満を感じませんでしたが、終盤に入って、失速というほどでは無いのですが、今ひとつ盛り上がり切れません。尻すぼみ。

一つには、終盤に入ってからの戦時中の描写が緩く感じられます。身の危険にさらされ、仲間を失い、恋情を抑え込まなければならない状況が描き出されているはずですが、緊迫感も悲愴感も切なさもいまひとつ。この設定・展開なら読者をドキドキさせたり目頭を熱くさせなきゃ嘘だと思います。多少あざとくなったとしても、読み手を直撃するような演出が欲しかった。

二つ目は、現代に来た若者が朱に交わって赤くなるのは止むを得ないけれど、小説的には彼が現代の日本に感じた違和感をもっと膨らませて欲しかったです(結果として現代日本を受け入れるとしても)。この設定・展開ならそういう方向しかないと思うんですよねぇ。状況に無為に流されがちなために、終盤は存在感ドンドン薄くなっていくように感じました。

丁寧で安定した筆致に心惹かれただけに終盤の盛り上がり不足は残念でした。
とは言え、総合的には楽しませてもらいました。
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  1. 2006-04-30 12:05:47
  2.  荻原浩
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メリーゴーランド (荻原浩)

別掲の『神様からひと言』と同タイプの作品。『神様からひと言』がダメな民間企業を舞台にしていたのに対し、『メリーゴーランド』は腐り切った地方自治体(それともこれが標準的な姿なのでしょうか?)を舞台に、主人公の奮闘をコミカルに描いています。

過不足を感じさせない安定した筆致で、安心して読めました。
しかし、残念ながら笑いと痛快さはかなり物足りません。
ユーモア感覚に優れた作家だとは思いますが、緩い笑いに終始しています。日常に潜む笑いを丹念に掘り起こしていこうという意図は分かりますが、丹念さのあまりテンポが緩くなっているのも良くないかと。
「こんなんで大丈夫なのか?」と読者の不安を煽りつつ土壇場で痛快に大逆転、というのがこの作家のコミカル系小説での常套パターンですが、今回は不発に終わっています。あまりにも予定調和的で、意外性が無さ過ぎ。ワクワク出来ませんでした。

コメディであっても明るく楽しいだけで終わらせないのがこの作家のバランス感覚。大成功の後に主人公を見舞う皮肉な展開は、巧いというよりも考えさせられるものがありました。
というか、読み応えあったのはここから。風刺的な意味もありますが、むしろ生きがいとかやりがいをどこに見出すのか、というありきたりだけど重みのあるテーマを見据えているようです。
ただし、前述のようにそこに至るまでの盛り上がりが不発気味なので、その煽りを食っているように感じられて残念。
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  1. 2006-04-30 12:05:24
  2.  荻原浩
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なかよし小鳩組 (荻原浩)

『オロロ畑でつかまえて』と同じ広告代理店が舞台になっていますが、続編というほどの密接なつながりはありません。

ヤクザである小鳩組からCIを受注した零細広告代理店の奮闘と、その広告代理店に勤めるバツイチのコピーライター(主人公)の人間的な気づきがコミカルに描かれています。

軽快でユーモラスな語り口はここでも好調ですが、ぬるめの笑いに終始しています。ハメをはずし気味のドタバタ劇だった『オロロ畑でつかまえて』に対し、こちらはヤクザのCIという基本設定こそ意表をついていますが、ストーリー展開そのものは概ね堅実です。人物の造形と描写は魅力的で、個性的な登場人物たちがそれぞれにいい味を出していますが、彼らのキャラとストーリーが連動した笑いはほとんどありませんでした。

そんな感じで、面白くもつまらなくも無いという微妙な印象のまま読み進みましたが、終盤に来て一転楽しませてもらいました。それまでの堅実な笑いが嘘のように盛り上がります。のどかでありながらスリリングという不思議なノリのままエンディングになだれ込みます。ここにきて人物描写も冴え渡って、このシーンで始めて登場した人物(世界的女性ランナーとか)までが魅力的。

これ以降は「欲を言えば・・・」的な不満なので、この作品の欠点ということではありません。
小鳩組のCI業務と主人公の内面的変化の因果関係が乏しい点が物足りなく感じました。主人公の成長を促したのは元妻や娘との関わりで、CI業務は「たまたまそのとき担当していた業務」に留まっているように読めます。主人公は小鳩組の誰の影響も受けていませんし、与えた影響もさほど大きくはありません。主人公は何人かの魅力的なキャラを持った組員たちと関わっているわけだから、主人公だけがリフレッシュして爽やかに終了というのは物足りなかったです。
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  1. 2006-04-30 12:05:05
  2.  荻原浩
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神様からひと言 (荻原浩)

食品会社を舞台に、笑いあり、スリルあり、しんみりありの、ちょっといい話風コメディです。きちんとドラマ化ないしは映画化されたらさぞや上質のエンターテイメントに仕上がりそう。見方を変えればこの手のストーリーは小説やドラマや映画などで使い古されているはずですが、無心になって楽しめました。目新しい趣向があるわけではないから、ひたすら作家のうまさとセンスの勝利と感じました。

序盤は緩やかな滑り出しですが、主人公が左遷されて新しい部署に転属されるや俄然面白くなってきます。個性的で凸凹なキャラ設定やドタバタのエピソードはいずれもありがちなパターンですが、すべてが上手く噛み合っていて、わくわくしながら読み進め、何度も笑わせてもらいました。特に、中盤以降の周到な伏線の末にはじける笑いが冴え渡っています。電車の中で本を読みながら笑いをこらえたのは久しぶりのことでした。

サラリーマンの生態や心情が、茶化されながらもかなりリアルに描かれています。作者自身が脱サラ作家だけに、通り一遍な描写ではありません。最後の最後までそんな調子で引っ張って、土壇場でドタバタの大どんでん返し。そして締めくくりはしっとり爽やかに。このあたりの手並みも抜群の上手さでした。

楽しめました。とにかく作者のうまさとセンスに脱帽です。
kamisamakarahitokoto.jpg
  1. 2006-04-30 12:04:43
  2.  荻原浩
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ハードボイルド・エッグ (荻原浩)

チャンドラーが描く探偵に憧れる、冴えない探偵の冒険物語。サスペンスやミステリーの要素もありますが、基本的にはユーモラスでほのぼのとしたエンターテイメントだと思います。ユーモアたっぷりの語り口で、ラストにはちょっとした“ほろり”もあります。

わたしが知っている範囲では、海外作品に同種の作品があったと思います。それらの作品と比べて取り立てて新味はありません。また、微温的な笑いに終始している印象で、全編にユーモアが張り巡らされているわりには笑えませんでした。しかし、人によって笑いのツボが違うので、一概には言えないでしょう。もっとも、毒と優しさを併せ持ったユーモアはなかなか魅力的で、狙ってできることではないと思います。ユーモアを多用すると人間観とか価値観が浮き彫りになってしまうので、書き手にとっては意外とリスキーですが、萩原氏は難なくクリアしていて好感が持てました。

描かれている事件が地味なのと、のんびりムードで進行するのとで、サスペンスの要素は弱いです。終盤に来てようやく急展開になりますが、全体的にまったりしています。一気に読ませる!というような勢いは感じられませんでした。読んでいる最中は何度かまだるっこしく感じました。しかし、読了後に振り返ってみると、冒頭で述べたようにサスペンスやミステリーがメインの作品では無さそうなので、ある程度の緩さは致し方ないのかもしれません。もちろん、笑えて、心温まって、かつスリリングであることが理想ですが・・・
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  1. 2006-04-30 12:04:22
  2.  荻原浩
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オロロ畑でつかまえて (荻原浩)

山村の村おこしを題材にしたドタバタ喜劇。この作家の出世作です。

脚本家の三谷幸喜氏の作風を連想しました。現実的な設定の舞台に現実離れした(ありえないような)事件を引き起こし、そこで繰り広げられるドタバタ劇を笑いと涙とスリルを交えて描きつつ(ただし『オロロ畑でつかまえて』に関しては涙はありません)、最後はどんでん返しとともに開放的なカタルシスで締めくくる。このタイプの作品は登場人物も作者も綱渡りの連続で、難易度が高いと思います。
後述するような物足りなさはありますが、破綻無くまとまっていると思いますし、この手の作品に欠かせないユーモラスで人懐っこい空気がよく出ています。狙ってできることではないので、貴重な持ち味と感じました。

筋立て自体はうまくできていますが、全体的に書き込みが不足しているようです。そのために、このタイプの作品特有のいい雰囲気は出ていますが、雰囲気止まりで手ごたえには至りません。
村の青年会のメンバーをせっかく個性派ぞろいの設定にしながらも、そのごく一部にしかスポットライトが当たっていないのはもったいない気がしました。もっともっと読者をドキドキワクワクさせられたはず。

また、最後の幕の引き方は不完全燃焼でした。というのは・・・(以下ネタバレ)
人気美人アナウンサーを村に嫁入りさせてどんでん返しという展開にするのであれば、そこに至るまでの過程でいくらでも面白い場面が作れたはず。やり方によっては、メインのウッシー捏造以上に盛り上がったはず。嫁入りがオマケのエピソードならあっさりした扱いはありだと思いますが、どんでん返しの肝に据えるからにはじっくりと書き込んで欲しかったです。ちょっと拍子抜けで、もったいなく感じました。

総合的には、後の作品につながる天性のとも言えそうな語り口は十分に楽しめました。
ororobatakextukamaete.jpg
  1. 2006-04-30 12:03:43
  2.  荻原浩
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博士の愛した数式 (小川洋子)

こういう小説はわたしに向いてないみたいです。
80分しか記憶がもたない数学者、などという面白い設定を突きつけられると、この奇抜な設定を使ってどんなふうに楽しませてくれるんだろう!っという方向で期待が膨らんでしまうんですね。でもそういう小説ではないのですね。作者にはこの設定の面白さとか、その裏返しとしての切なさ・哀しさなんかを追求するつもりはないみたいで、ハートフルな愛の物語というコンセプトに即して便利に利用している感じなんですね。だからディテールが緩く感じられて、深く感情移入できなくて、期待は満たされませんでした。
琴線に触れたのは、毎朝目覚めるたびに自分の記憶障害を確認して打ちひしがれる、という場面くらい。でも、これもちょっと緩く感じられました。

作者の狙いがハッキリしている以上外野がとやかく言うことはないのだけど、以前読んだ『沈黙博物館』(別掲)がなかなか骨のある作品だったので(全体としては非現実的なんだけど、ディテールの作り込みは素晴らしくリアル!)、異なる方向で勝手に期待していたために、肩透かしな気分でした。

というわけで、あんまり突き詰めないで、ふんわりと心温まるタイプの小説なのですが、このタイプの作品としてはとてもきれいな仕上がりだと思いました。
hakasexaisitasusiki.jpg
  1. 2006-04-30 12:01:34
  2.  小川洋子
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