ぶっき Library... 吉村萬壱

ぶっき Library...
読んだものの感想を自由に。



バースト・ゾーン 爆裂地区 (吉村萬壱)

奥泉光氏のところでも書きましたが、純文学並に人間描写にこだわった娯楽作品、というのがわたしのツボ。意外と出会えないものですが、『バースト・ゾーン 爆裂地区』はうれしい該当作品でした。

この作家はデビュー作品集『クチュクチュバーン』(文学界新人賞)ではシュールなカタストロフを、芥川賞受賞作『ハリガネムシ』ではバリバリの純文学路線で人間の暴力的衝動を描破してきました。『バースト・ゾーン 爆裂地区』は近未来SFっぽい大作。なかなかに多彩(=多才)です。

『クチュクチュバーン』収録の2編と『ハリガネムシ』はいずれも短い作品だったので、この長大さが気がかりでしたが、揺るぎなく世界が構築されていて感服。堂々としてパワフルな筆致に圧倒されました。

ただし好き嫌いはかなり分かれそう。
エログロ・バイオレンスな作品世界は相変わらずだし、『クチュクチュバーン』なんかと比べると設定に具体性があってSFっぽさ=ジャンル色が濃厚。純文学路線の『ハリガネムシ』を気に入った読者がこの作品をどう受けとめるか?
また、純文学然とした渋すぎるキャラ設定や生臭い人間描写を純粋なSFファンはどう受けとめるか?

作者の創意は、純文学とかSFといったジャンルを超えて、エログロ・バイオレンスな表現や極限状態での人間心理を描き出すことに一途に向かっています。つまり心地良くない世界を構築しようとしています。このスタンスのままだと愛される作家になりにくいかもしれないけど(?)、自分がやりたいこととそれを実現する方法を心得た力強い存在です。
berstzone.jpg
  1. 2006-05-03 11:07:41
  2.  吉村萬壱
  3.  |
  4.  Trackback(0)
  5.  Comment(0)
  6.   Top ▲ Home

ハリガネムシ (吉村萬壱)

『クチュクチュバーン』(別掲)はそれなりに面白く読めました。ただし、内容的には近未来SF風のパニック小説の終盤を抜き出したようなもんで、新しいとか前衛的というのではないと思います。どっちかというと身体を張ったギャグみたいなもので、そういうケレン味が面白かったし、それを最後まで読ませてしまう筆力に感心したわけです。

『クチュクチュバーン』で野放図に解き放たれていた暴力的で破滅的な衝動を、現実的な世界に生々しく落とし込んだのが『ハリガネムシ』です。
『クチュクチュバーン』とはうってかわっての正攻法のアプローチ、というかあきれるくらいに保守的で古色蒼然としたスタイル。純文学の作家としてやっていくならばこういう作品も書けることを示す必要があったとは思うけど、随分フツーになってしまいました。やっぱり芥川賞を意識した傾向と対策の結果なのでしょうね。

陰陰滅滅とした私小説的ノリといい、生々しく粘っこい心理描写といい、登場人物の心境や衝動を外的対象物(ハリガネムシとかハエとか)に表象させる古臭い手法といい、手垢にまみれた定番的アプローチ。過激な描写が目をひくと言っても、人間の暴力性や獣性を描くこと自体はいまどきありがちなわけで、取り立てて個性的とは感じませんでした。芥川賞という論述試験の模範答案みたいなもんですね。

保守的で堅実志向であっても内容が充実していれば良いわけで、「その気になればこういうのも書けるのか」と感心させられたし、けっこう引き込まれました。主人公のタガが外れてアブノーマルな世界に落ちていく描写はなかなか迫力があったし、自分自身に翻弄されることの怖さがリアルに描かれていました。

でも、個人的にはもうちょっと炸裂して欲しかった。わりと自己完結的なんですよね。純文学って自己完結的なのかもしれないけど・・・。現実の社会ではもっともっとエグイことが当たり前に起こっているわけで、手法の面で冒険しないのならば、せめてストーリーくらいははじけて欲しかったですね。
いろいろな殻を破ろうとするパワーに惹かれるわたしなのです。

本作品が芥川賞を睨んで無難にまとめた小説だとしたら、そういう呪縛から解放されるであろう次回作に期待です。
hariganemusi.jpg
  1. 2006-05-03 11:07:17
  2.  吉村萬壱
  3.  |
  4.  Trackback(2)
  5.  Comment(0)
  6.   Top ▲ Home

クチュクチュバーン (吉村萬壱)

『クチュクチュバーン』『人間離れ』の2作品が収録されています。

ともに近未来SF風のパニック小説で、人類にとっての極限状況が描かれています。『クチュクチュバーン』では人類の変態、『人間離れ』では異生物による攻撃。
状況や背景の説明は最低限度。そのせいかSF臭さは無くて(SFだと状況や背景を科学的に説明しますよね?)、繰り広げられる描写の生々しさが前面にでている印象です。

いきなり始まって、ひたすらグロテスクでバイオレンスな描写が、無機的な語り口で小気味良くスピーディーに展開していきます。
オーソドックスな起承転結型の構造は完全に放棄されていて、導入後はひたすら想像力のパワーと瞬発力とスタミナで押しまくるだけの、“肉を切らせて骨を断つ”的な捨て身のスタイル。2作品とも長い作品ではありませんが、とにもかくにもラストまで読者を引きずり回します。想像力のあっぱれな全力疾走(短距離だけど)。
こう書くとなんかカッコ良さそうですが、繰り広げられるイメージはゲロゲロ。

『クチュクチュバーン』の方はラストで意味ありげなオチ(人間とは?みたいな)がつけられていますが、味わうべきはそれに至るまでの想像力の躍動感でしょう。『人間離れ』も同様です。
それを楽しめるかどうかにかかっています。

奔放さと奇想天外さは『クチュクチュバーン』、バイオレンスなら『人間離れ』。人の命や尊厳(?)を虫けらのように扱う容赦の無さとグロテスクな気持ち悪さはどちらもいい勝負。このあたりは滅茶苦茶好き嫌いが分かれそう。嫌いな人にはひたすら気持ち悪いだけかも。

かなり荒削りだし、2作品とも極端な性格の同タイプの小説なので作家としての総合的な力量は判断できませんが、吉村氏がいろんな意味で只者でないことは間違い無さそうです。
kutyukutyubarn.jpg
  1. 2006-05-03 11:06:52
  2.  吉村萬壱
  3.  |
  4.  Trackback(1)
  5.  Comment(0)
  6.   Top ▲ Home

最新の記事

カテゴリー NAVI

全体(HOME)

読書系
あ行
浅倉卓弥 (3)
浅田次郎 (5)
我孫子武丸 (2)
阿部和重 (7)
綾辻行人 (4)
有栖川有栖 (5)
伊坂幸太郎 (9)
いしいしんじ (3)
石田衣良 (2)
市川拓司 (4)
伊藤たかみ (2)
絲山秋子 (5)
歌野晶午 (7)
冲方丁 (2)
浦賀和宏 (3)
大江健三郎 (2)
大崎善生 (2)
小川洋子 (2)
荻原浩 (7)
奧泉光 (3)
奥田英朗 (3)
恩田陸 (2)

か行
垣根涼介 (4)
角田光代 (2)
金原ひとみ (3)
川上弘美 (2)
貴志祐介 (5)
京極夏彦 (2)
桐野夏生 (2)
栗田有起 (4)

さ行
重松清 (2)
島本理生 (3)
殊能将之 (4)
白石一文 (4)
瀬尾まいこ (3)

た行
多島斗志之 (3)
戸梶圭太 (2)

な行
中村航 (2)
二階堂黎人 (2)
西尾維新 (3)

は行
東野圭吾 (5)
樋口有介 (3)
古川日出男 (5)
保坂和志 (2)
堀江敏幸 (2)
本多孝好 (2)

ま行
舞城王太郎 (8)
松尾スズキ (2)
町田康 (3)
松岡圭祐 (3)
麻耶雄嵩 (5)
三浦しをん (2)
三崎亜記 (2)
水野良 (5)
宮部みゆき (5)
村上春樹 (15)
村上龍 (3)
森絵都 (3)
森博嗣 (7)

や行
横山秀夫 (2)
吉田修一 (3)
吉村萬壱 (3)
米澤穂信 (3)

わ行
綿矢りさ (2)


その他の作家 (44)


海外の作品 (9)



雑談系

このブログについて

最近のコメント

※ ポインターをあわせるとタイトル表示

最近のトラックバック

※ ポインターをあわせるとタイトル表示

リンク



にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

ブログ検索

運営者

ひねもじら 乃太朗

40代の中年男子です。コメント、トラックバック大歓迎です。でも、変なのは消しちゃいます!

メールを送る
管理者ページ





Powered By FC2ブログ