ぶっき Library... 吉田修一

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読んだものの感想を自由に。



日曜日たち (吉田修一)

この人の本を読むのは、『パークライフ』『東京湾景』に続いて3冊目。

どれも、繊細な演出と簡潔で乾いた語り口が共通していて、似た空気を放っているけど、作者のスタンスが少しずつ違う。
芥川賞受賞作『パークライフ』は純文学風に寸止めの美学(?)。『東京湾景』は対照的にベタなメロドラマ。
さて『日曜日たち』は?

『日曜日たち』には、“日曜日”という単語で始まるタイトルの、5つの短篇が収録されている。ただし、“日曜日”に深い意味は無さそう。
各編の主人公は、生き方が定まらない20代~30代半ばの男女。作者は、日常生活の中で通り過ぎていく感覚とか感情を乾いたタッチで簡潔に描写し、それによって内面を映し出す。

変則的な連作短編集になっていて、各編は独立した別個の物語だけど、脇役として幼い兄弟がちらちらと登場する。
各編は時系列になっていて、読み進むにつれてこの兄弟の存在感が増していく。この巧妙な演出が、一冊の本としての読み応えをグンと押し上げている。うまい。

頭の2編『日曜日のエレベーター』『日曜日の被害者たち』は、純文学風というのではないけれど、微妙かつ繊細な演出で、ピントを合わせずらい。一読して「あれ!?」で、パラパラとページをめくりながら反芻するうちに「あ、こういう気分を演出しているのか」と得心。得心できると感心に移行。
この2編を読み終えたところで「面倒くさい読書になるかな?」と不安が頭をもたげるも、残る3編は分かりやすい。むしろベタなくらい。でも、繊細で品のある文章が、安っぽくしない。前述の連作の仕掛けもあって、満足のうちに読了。

よく言えば繊細、悪く言えばひ弱な作品世界だけど、センスの良さは争えない。
nitiyobitati.jpg
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オンライン書店ビーケーワン

  1. 2006-10-15 13:38:20
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東京湾景 (吉田修一)

別掲の『パーク・ライフ』は文芸の匂いが強い作品でしたが、こちらはありがちなメロドラマでした。

この手のジャンルは読みつけないので遠慮しようかとも考えましたが、せっかく読んだので自分なりに感じたことを。

愛することに懐疑的になったり臆病になっている一組の男女がすれ違いながらお互いの気持にたどり着く、というありがちな物語。お互いの心に踏み込まない男女が、これまた登場人物に踏み込まない筆致でソフトフォーカスに描き出されています。『パーク・ライフ』の作者ということで、最後まで読んだら何かあるかもしれない、と期待して読み通しましたが、すんなりと型どおりに終わってしまいました。つまりフツーのメロドラマでした。

湾岸というロケーション、出会い系での出会い、携帯メールでのコミュニケーション、職場での女性の立場、教師と生徒の恋愛等々の道具立てもお約束通りと言えるんじゃないでしょうか。
嘘っぽかったり甘ったるかったりしないのはこの作家のセンスの良さかな。『パーク・ライフ』でも感じたことだけど、描かないことによってリアリティを演出する手並みは上手い。
ただし、テーマや展開がこれだけベタだと、繊細で巧妙な技のうまみはほとんど相殺されてしまって、ちょっと趣味のいいベタな恋愛小説、以上のものにはなっていないと思う。だからダメということでは無いけれど、(個人的に)この人に期待するものからはかけ離れています。
tokyowankei.jpg
  1. 2006-05-03 11:06:21
  2.  吉田修一
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パーク・ライフ (吉田修一)

『パーク・ライフ』『flowers』の2編が収録されています。

どちらの主人公も、他人との乖離やズレを不可避なものとして受け入れて、それを常態としながら流され気味に日常を送っていますが、そうした中でのちょっとしたドラマが描かれています。

【パーク・ライフ】
序盤から中盤にかけて、流され気味な日常の中での内面の空虚さや自我(他者や外界から区別して意識される自分)の薄弱さが、臓器提供や人体模型の喩えを通して描かれます。突っ込んだ分析ではなくて、そこにあるものとして(あるいは無いものとして・・・)漠然と語られています。

そしてラストは、薄曇の雲が途切れてスッと陽光がさしかけてくるように、微妙に肯定的。
エンディングでスタバ女が「・・・私ね、決めた」と呟いた後ちょっと吹っ切れたような態度になって、それが何についての決心か分からないままに、主人公は「まるで自分まで、今、何かを決めたような」気持ちにとらわれます。何かを決心した他人を間近に見て、ちょっとだけ元気をもらいました、てことですよね、これ!?
スタバ女が何に対してどのように吹っ切れたのかは描かれていません。吹っ切れた瞬間と、その瞬間に立ち会うことで主人公の中に起こった微妙な感覚がさりげなく描かれています。

人から元気をもらう瞬間ってこんなものかもしれない、と思わせる周到かつ巧みな演出。このさりげなさがミソなのでしょうね。一生に一度あるかないかの大事件を描くのではなく、日常の中に転がっている契機を捉えることがこの作品の目指したリアリティなのでしょう。なかなかの意欲作ではないでしょうか。
もっとも、この作品を読んで元気になれるとは限りません(笑)。

それにしても、ちょっとさりげなさ過ぎるかもしれません。現実にこういう場面に立ち会ったら、表情や声のトーンや動作なんかからいろいろ読み取れるけど、言葉だけで表現する小説ではそのあたりのニュアンスが伝わりにくいわけで、できればそこを補って余りある演出が欲しいところ。

主人公とスタバ女の関係は今後恋愛に発展するかもしれないけど、この作品を恋愛小説の脈絡で読むとおかしなことになると思います。

【flowers】
生活のいろんなことに起因する主人公の抑圧みたいなものが職場での虐めもどきによって爆発、みたいな展開です。爆発といってもそんなに派手じゃありませんけど、徹底的にさりげない『パーク・ライフ』に比して物語は動的に展開します。そのぶん分かりやすくなっています。

ただし感銘は今一歩。
キーとしてどしゃぶりの墓地のシーンが使い回されていますが、このシーン自体が全然鮮やかではないし、暴行場面とのかぶせ方も垢抜けません。故郷を捨てることを決心した出来事と堪忍袋の緒を切らす出来事をオーバーラップさせる演出意図は分からないでもないですが、小説なんで感じさせてナンボのもんだと思います。
メインの流れが締まらないので、主人公と妻や従兄との関わり方の描写も宙に浮いている印象でした。
parklife.jpg
  1. 2006-05-03 11:06:02
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