久しぶりというか、何ヶ月ぶりかの小説。軽い娯楽作品を、ということで本書を手に取ったけれど、注文通り。
この作家、作品がシリアスになればなるほどもどかしさが募る。社会に対する批評や人間に対する洞察が甘っちょろいから。
その点、本書ではあっけらかんとした楽しさが追求されていて、素直に楽しめる。
全編にわたって上手いと感じるのが、キャラの立たせ方とかサービス精神たっぷりの会話。後者はややしつこいけれど、うるさくはならない。サラッとした軽味は天性か。気持ちよく読ませてくれる。
ストーリーテリングの面白さは、以前に発表されたらしい四つの短編に基づく第一章が際立っていて(気の利いたミステリー、というタイプの面白さだけど)、第二章以降は緩くなって、手に汗を握るとか、胸がすくとか、にんまりできる、というほどではない。悪役のキャラが弱いし、主人公たちの作戦はすんなりと進み過ぎるし、そもそも主人公たちがこの事件に肩入れする必然性が描けていない。また、お得意の伏線の処理は、手際は良いけど、華麗といえるほどではない。
読ませるのは、あくまでもキャラたちの力。
前作『陽気なギャングが地球を回す』の記憶は定かではないけれど、いじめとか自閉症児のエピソードが盛り込まれていて、巧みに陰影をもたらしていた。本書ではその種の演出は控えられていて、ひょっとしたら数ある伊坂作品の中でも、もっともあっけらかんとしたテイストかもしれない。
オンライン書店ビーケーワン
- 2007-01-02 22:00:45
- 伊坂幸太郎
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伊坂幸太郎はどこに行きたいのか?
このサイトではこれ以前に伊坂作品を7つ採り上げていて、これはかなり多い数。人気者だから、といのもあるけれど、採り上げる作品数は作家への期待度にある程度リンクしている(はず)。
ただし、自分の感想を読み返すと、あまり好意的ではないというか、(わたしから見た)長所と短所がハッキリしている。人懐っこくてスーパースムーズな語り口や演出の面白さは傑出しているけれど、人間とか社会の描き方が幼稚というかズレているというか、説得力が乏しい。文章についても同様で、とても読みやすくて雰囲気のある文体だけど、言葉の選び方が雑で(たぶんノリでやっていそう)、ときどき奇妙な比喩を使う。
この本には『魔王』『呼吸』の中篇2作品が収録されていて、『呼吸』が『魔王』の後日譚という関係になっている。
プチ・サイキック・ウォーズみたいな遊び心は“らしい”けど、いずれも抑えた作風になっていて、つまり過去の作品に見られた華やかなエンターテイメント性は影を潜めて、かつストーリーの起伏も控え目で、渋くテーマが追いかけられている。
テーマはなんだろう?ファシズムが前面に出ているけど、大衆心理の危うさ・怖さみたいなものがメインになっているような。その危うさ・怖さが日常の出来事を通して伝わってくる仕掛け。
前述の長所短所はここでも感じたけれど、コンパクトな長さと渋い持ち味のせいか双方とも控え目になっていて、ひっかかりが少ないかわりに、一気に読まされるようなドライブ感も乏しい。ただし、つまらないということではなくて、最後まで間延びすることなくスムーズに読めたし、『魔王』の終盤には緊迫感があった。
冒頭で、伊坂幸太郎はどこに行きたいのか?という疑問を掲げたのは、従来作品から若干路線変更されていて、(わたしがいうところの)短所を伸ばし(わたしがいうところの)長所を抑える方向を向いているように感じられたから。
政治とか社会が扱われているのだけれど、30代半ばの成人男性(ちなみに1971年生まれ)としては社会認識が低過ぎ。中高生レベル。犬養という政治家はチャチな作り物だし、この政治家が出演するテレビ番組はかなり酷い。また、反米気運の高め方も安易に感じられる。『魔王』の主人公=語り手の思慮も心もとない。
いわゆる政治小説とか社会派小説という造りではないから、これらが即作品の欠陥になっているわけではないけれど、もしこの路線を推し進めていくならば、つまらないことになりそうな気がする。
《文章についてのいちゃもん》
世間では洒脱とされることの多いこの作家の文章ですが、他の作品の感想でも書いたとおり、わたしは洒脱とは感じないし、むしろルーズと感じています。
『魔王』の序盤に、以下のような電車の走行音の比喩があります。
「興奮した男の血圧がぐんぐん上がり、血流が悲鳴を発するような、そんな甲高い音だ。」甲高い走行音の不快感を上手く表現したかったのでしょうが、比喩として混乱があります。というのは、ほとんどの読者は電車の走行音を知っているはずだけど、血流の音を聞いたことがある人はいないはずで、仮にいたとしても既に死んでいるはず。つまり逆なんです。血圧の急激な上昇を電車の走行音で喩えるのはアリだけど(比喩として上手いかどうかは別として)、逆は無理があります。
重箱の隅をつついているように感じられるかもしれませんが、わたし自身は、自然体で読んでいて、ゴツンとひっかかってしまいました。
この人は凝った表現を好みますが、こういう用法的にルーズな例が多くて、危なっかしいです。些事のようですが、他の作家は概ねちゃんとしているわけで、わたしとしては「そこはプロなんやから、ちゃんとやろうぜ」とダウンタウンの浜ちゃん風に言いたいところです。
過去の作品に比べると、『魔王』はこの種の危なっかしさが少なくなっているので、ここで触れるのには若干の抵抗がありますが・・・

- 2006-04-30 00:48:36
- 伊坂幸太郎
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どうも『重力ピエロ』(別掲)のネガティブな印象が強烈で、眼が汚染されているかもしれません。テイストが近いせいか、人物とか物語のそこここに幼稚さを感じてしまいます。
もっとも、『アヒルと鴨のコインロッカー』は主人公が平凡なキャラなので、『重力ピエロ』に比べると拒否反応はかなり低め。
紋切り型の説明は潔く切り捨てて、印象的なエピソードを積み重ねることでキャラを浮き彫りにしていきます。さらに、物語の進行に合わせて丁寧にフォローアップしています。個々の出来事の進行中も、人物にマメに目配りしてくれるので臨場感があります。読者はエピソードに立ち会いながらキャラに入り込めるので、読み気が逸れません。読み手をスムーズに作品世界に誘い込む仕掛けが大変効果的。いろいろケチをつけながらも手にとってみたくなるのはこれがあるから。
『重力ピエロ』での兄弟愛・家族愛のような強力なモットーはなくて、派手さはないけれど伏線と叙述トリックの妙をそれなりに楽しめました。
文章に関しては、「こういうのをカッコイイとかユーモラスとか考えているのかな?」的な表現が多くてちょっと辟易。お洒落に気を遣っているけれどセンスが悪い人、みたいな。

- 2006-04-30 00:47:29
- 伊坂幸太郎
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家族愛とか兄弟愛がメインテーマで、連続強姦魔に対する復讐劇が描かれています。
これまでに読んだ伊坂作品は、気が利いた面白さとか、伏線の妙、そして文体のとっつきやすさが魅力の、軽妙なエンターテイメントでした。
『重力ピエロ』はその面影を残しつつも、登場人物たちの心情とか価値観に深く踏み込んでいます。
それによってこれまでに無く雰囲気たっぷりなのですが・・・
どうやら伊坂幸太郎は、不幸な生い立ちにもかかわらず、周囲の偏見や無神経に負けないで生きる一組の兄弟を、感動を込めて描きたいようなのですが・・・彼らの言動を追う限り、気の毒さを上回る幼稚さ、自己中が鼻についてしまいます。
伊坂幸太郎はこの兄弟を通じてある種の価値観を提示しようとしていますが、物事を突き詰めて考えられない人間ならではの甘さがあって、面白い価値観を提示できているわけでもなければ、風刺にすらなっていなくて、要するに幼稚なだけ。
主人公による一人称語りは、重苦しい物語を人懐っこくユーモラスに読ませる点では大成功ですが、とんちんかんな意見とか、気を利かせているつもりのダサい言い回しが目白押し。
才能豊かな作家と思いますが、人間観・社会観のチャチさは如何ともしがたく感じます。

- 2006-04-30 00:47:11
- 伊坂幸太郎
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5編からなる連作短編集。過去の作品で披露されたファンタジックな味付けや華麗なストーリーテリングは抑え目で、日常的描写を通して人間に焦点を当てた、口当たりの良い軽めのドラマ。
突き詰めて読むと、少年事件を担当する家裁調査官を描きながら少年犯罪には踏み込まなかったり、視覚障害者を描きながらその生活のマイナスの部分に立ち入らなかったり、主要人物が抱える父親との確執が表面的にしか描かれていなかったりと、題材の料理の仕方が浅薄だけど、軽い読み物として割り切れれば、相応に楽しめます。キャラは分かりやすいし、控えめながら読み手の気を逸らさない演出は巧み。
特に最終話『イン』での読者に視覚障害者の感覚を疑似体験させる演出には旨味を感じました。
ただ、1編目の『バンク』に限っては、語り手の軽薄なおしゃべりといい、主要人物の一人である陣内の道化じみた言動といい、ベタで陳腐に感じられました。

- 2006-04-30 00:46:51
- 伊坂幸太郎
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妻の仇討ちを目論む元教師と3人のタイプが異なる殺し屋たちが織り成すドラマ。
もともと人物造形とかプロットとかはかる〜い作家だけど、これはあまりにもチャチだと思った。キャラを引き立たせるために特徴的な習慣的言動(常に文庫本を読んだり、幻覚を見たり、ミュージシャンの歌詞を引用したり)が割り振られてるけど、それだけって感じ。そんな人物造形で殺し屋を何人も登場させちゃっているので、キャラが被ってどいつもこいつもパッとしてないし。
プロの殺し屋たちにプロらしからぬ軽率な言動が多いことも違和感。実行現場でしゃべりすぎだし、実行に時間をかけ過ぎ。「こんなんでプロの殺し屋?」って感じでユルすぎ。もっと酷いのは危機管理ゼロの殺しの仲介人。『ゴルゴ13』を勉強すべき!元教師が演じる茶番もわざとらしくて空疎。ありえない言動のオンパレード。
スリリングとはいえないものの、スムーズなストーリー展開と小気味のいい場面転換に助けられて最後まで読み通せた。暇つぶしとしてならそれなりには楽しめるけど、個人的にはかなりギリギリ。

- 2006-04-30 00:46:24
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銀行強盗団を描いたコミカルなサスペンス。
『オーデュボンの祈り』と『ラッシュライフ』は方向性は違うけれどそれぞれに意欲的な作品で、どこかしらに不満はあってもこの作家の個性の輝きを感じました。前2作品に対し、『陽気なギャングが地球を回す』はわりとありがちな小説で新鮮味はありませんでした。堅実でまとまりがいいかわりに、この作家ならではという特別な印象は受けませんでした。
しかし、設定やストーリー展開を手堅くまとめたぶん、この作家の上手さが伝わってきます。ベテラン作家のような余裕と手堅い上手さを感じました。
キャラクターメーカーとしての非凡な力量を堪能できます。あまりにも自然なので意識に上りにくいですが、複数の主要キャラの個性を描き分けつつ、そのいずれもを活き活きと魅力的に描く手腕は見事で、安心して読むことが出来ました。
登場人物同士の軽口や他愛の無い会話が多用されていて、こういうのはキャラが弱いと読むのがわずらわしくなりがちですが、この作品でその種のストレスは感じませんでした。むしろ、人物や彼らの関係を浮き彫りにするという狙いがバッチリ決まっていて感心しました。
上手さに加えて作者自身がキャラの扱いを楽しんでいるふしがあって、物語全体を楽しく活気あるものにしています。
ストーリー展開は手堅いとしかいいようがありません。先が読める展開だし盛り上がりはほどほど。それでも飽きさせない語り口だし、いじめ、自閉症などを織り込むことで奥行きを出しています(正面から捉えているわけではないけど)。展開のテンポがいいので最後まで気持ちよく読めました。

- 2006-04-30 00:46:06
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