ぶっき Library... 村上龍

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読んだものの感想を自由に。



ラブ&ポップ トパーズ2 (村上龍)

先日アップした『Deep Love』と援交つながりで読んでみました。実践に向けての下調べ、ではありません(笑)
ちなみに、『Deep Love』は2000年の作品ですが、『ラブ&ポップ』は90年代半ば。

援交女子高校生のとある1日が描かれています。

この作品には作者のあとがきが付いていて、それは「私は、あなた達のサイドに立って、この小説を書きました。」という一文で結ばれています。「あなた達」というのは、執筆に協力してくれた女子高校生たち。
ここでの「あなた達のサイドに立って」は、援交を歪みや乱れと片付けないで、現実を受け容れるところから執筆した、というような意味でしょう。たとえば『阿修羅ガール』(舞城王太郎)の第1章のような、ダイレクトに彼女たちの息遣いを感じさせる筆致ではなくて、『ラブ&ポップ』では媒介者(≒案内人兼通訳)として村上龍の存在が見え隠れします。良し悪しは別にして。

たぶん、この作品のポイントは3つ。

1つ目は、彼女たちを取り巻く時代/風俗の再現。
ファーストフードや渋谷の街角で耳に飛び込んでくる人々の会話、伝言ダイヤルに登録されている伝言の数々、店頭に並ぶブランド品の数々、などが、何ページにも渡って延々連ねられています。個人的にはあざとく感じますが、なかなか効果的。

2つ目は、援交に対する女子高校生たちのスタンス。
普通の、というよりも普通以上に恵まれている女子高校生たちが、罪悪感や恐れはあるけれど、それらを簡単に乗越えてしまえる危うさが伝わってきます。

3つ目は、彼女たち(主人公の裕美をモデルとして)の内面の掘り下げ。
本人の自覚はあやふやですが、その日の出来事を通して、周囲の人や生きることと心の表面でしか関わっていないこと、そのことがゆがんだ渇きとなっているらしきこと、が暗示されます。もちろん本書の最重要ポイント。上手さは感じますが、奇麗事臭いかも。

手際良くドラマに仕立てられているし、大胆な演出が目をひきますが、「小説版いまどきの援助交際レポート」という印象が無きにしも非ず。主人公の裕美に生身な感触が乏しいので、分析や計算が表立って見えてしまいます。

20年ほど前に読んだ『限りなく透明に近いブルー』を除くと、3作しか読んでいないのに、こんなことを言うのは僭越かもしれませんが、この作家は人物造形に際して“形(外側から看取できる要素)”からアプローチする傾向があるようです。だからこそ、いろんなタイプの人間を描き分けられるし、時代とか風俗に熱い視線を注ぐのでしょう。
“形”を整えて終わり、ということではなくて、“形”から内奥に迫っていきます。ただし、踏み込みが甘いと、奥底まで光が当たりきらなくて、よそよそしくなってしまいます。『ラブ&ポップ』にはそんな印象が残りました。
lovepop.jpg
  1. 2006-06-19 08:36:22
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コインロッカー・ベイビーズ (村上龍)

コインロッカーに嬰児遺棄された二人の男の物語。成長に伴って二人の中に破壊衝動が頭をもたげ、そのパワーが一人は外に、もう一人は内へと向かう。
この作品の非凡なところは、単にその生き様を描いているというのではなくて、破壊に向かう彼らのパワーを文章の力で表現する、という離れ業に挑んだ果敢さ。
いやいや、逆かもしれない。村上龍自らの破壊衝動を炸裂させることが本来の狙いで、嬰児遺棄はそれをするためのネタに過ぎないのかも。

いずれにしても、言葉とイメージの奔流(ときには濁流?)が無尽蔵なスタミナで放出されていて、この作品の実体は、物語の中身よりも、膨大な文章からほとばしるパワーそのもの。
また、文章は一貫して即物的かつドライで、読者に感情移入を許さないし、作者本人の感情移入も感じさせないから、物語というより、物語形式を用いたパフォーマンス、という色合いが濃い。

ただし、イメージの刺激性や奔放さを極端に優先しているから、物語としてはかなり散漫。この小説は、要するに生後まもなく捨てられて情緒不安定になった人間を描いていて、手堅くまとめたら『永遠の仔』(天童荒太著)みたいになりそうな題材なのだけど、村上龍はこれを確信犯的にグロテスクに誇張しているわけで、だからなるべくしてなっているのだけれど、物語の整合性や説得力という観点で見たら冗漫になっている(と思う)。

ある意味“肉を切らせて骨を断つ”アプローチなので、村上龍のパワフルなパフォーマンスに気持ちよく酔えればアバタはエクボになるし(無茶苦茶なところがイイ、みたいな)、逆に冷淡に読んでしまうとエクボがアバタになってしまいそう。読者の好みが鍵を握るかも。

わたしはというと、おそらく作品発表当時に読むか、あるいは学生時代に読むかしていたら圧倒され翻弄されただろうけど、今はわりと冷静に読めてしまった。
この文章を凄いと感じつつも、村上龍の影響を受けたのかもしれない幾多の饒舌体に触れた今となっては、翻弄されるには至らない。また、この作品の暴力や同性愛なんかは現代でも十分に通用すると思うけど、しかしもはや衝撃的でも刺激的でも無くなっている。
この作品と村上龍の非凡さを受け止めつつも、物語の散漫さ冗漫さゆえにところどころ流しながら読んだし、興奮を持って読み終える、なんてことは無かった。
coinlockerbabies.jpg
  1. 2006-05-03 00:46:05
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テニスボーイの憂鬱 (村上龍)

同じ村上でも春樹の方はすべての長編を読んでいるけれど、龍の方はこれで2冊目。1冊目は遠く昔の学生時代に『限りなく透明に近いブルー』を。圧倒されたわけだけど、その後手を出さなかったということは好みではなかったみたい。
そろそろ次を思案していたところ、別掲の『作家の値うち』で福田和也氏が高く評価していたので本書を手にとってみました。

バブル期前夜あたりの日本が舞台で、主人公は土地成金の息子。妻子持ちで、親の金でステーキ屋を経営しているけど、趣味のテニスにのめり込んでいる。そんな彼の2つの恋(浮気)が描かれています。

1つめの恋が終わるあたりまではなかなか楽しめました。主人公の描き方とか語り口が絶妙。取り留めなく言葉が吐き出されているようでありながらあちこち目配りがされていて、しかも計算を感じさせないナチュラルな感触。うますぎ。
ところが2つ目の恋が描かれている後半に入ると段々退屈に。結局首をひねりながら読み終わりました。これのどこがいいんだっけ・・・?

幸いなことにわたしが手にした幻冬舎文庫版(画像は集英社文庫版です)の解説が当の福田和也氏。本書は“小説家村上龍の畢生の傑作であり、日本人が経験した「豊かさ」から、その極点としての倦怠において、何らかの答えを引き出そうと挑んだ、問いと求道の、希有な試みである”だそうです。
なるほどなるほど。文芸評論家とか大学の先生の解説は「結局何が言いたいのかな?」「難しそうな言葉を並べてごまかしてない?」ってなることがしばしばなんだけど、この本の解説は良し悪しはともかく参考になりました。こう読むと傑作として読めるのか、なるほど。

ん!?でもでもでも・・・こっちは素人とはいえ、そんなに簡単に丸め込まれるわけにはいかん!
この作品が発表された当時(80年代前半)のことは知らないけれど、20年後の現在から振り返ると、この作品に描かれている倦怠って陳腐化しているんじゃないかな?今日の倦怠とは種類が異なるのかもしれないけれど、ここで描かれている倦怠は生ぬるいというかインパクトが弱すぎ。
それに、意図的なんだろうけど主題に解決を与えないで終わっていて、演出としてはありだろうけれど、この程度のことが解決できないようでは2005年は生き抜けないんじゃないの?って感じなのです。
たぶんこのあたりが後半の物足りなさにつながったのではないだろうか。

思うに、村上龍氏は時代をなぞるだけじゃなくて、その空気を体内に吸い込んで自分の言葉として吐き出している。これはきっと努力しても簡単に出来ることじゃなくて、この作家のセンスとか才能なんでしょう。
そういうところに敬意を感じつつも、しかし読んでいる自分が2005年にいることは動かしようのない現実で、現在では(一部の)小学生だってもっと入り組んだ倦怠の中で生きているような気がします。
発表当時に適確に時代を捉えていたのかどうかは今さら判断できないけれど、現時点では作品の本質的な部分に風化を感じるわけで、この程度の期間で風化してしまうとすれば、普遍性にまで掘り下げ切れてないんじゃないだろうか、という意地の悪い見方をしてしまいます。
tennisboyxyuutu1.jpg
  1. 2006-05-03 00:45:34
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