ぶっき Library... 松岡圭祐

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読んだものの感想を自由に。



カウンセラー (松岡圭祐)

『催眠』の嵯峨が活躍する作品。仕立て、雰囲気も『催眠』と似通っています。

サスペンスとしてはなかなか楽しめました。人間心理を題材としているだけに、登場人物の心理描写は非常に読み応えがあります。そして、この心理描写がサスペンスとしての緊張感・盛り上がりにつながっています。特に連続少年殺人犯の狂気の描写には凄みを感じました。そもそも、犯人が狂気に至る展開そのものが刺激的で、松岡氏のエンターティナーとしての才覚に感心しました。こういう展開だと嘘っぽくなってしまうことが多いのですが、説得力が感じられました。

しかし、すんなりと楽しむことはできませんでした。ヒーローである嵯峨を飾り立てることは良いと思いますが、嵯峨個人ではなく臨床心理士そのものを持ち上げる姿勢には不快感を覚えました(わたしは精神医療従事者ではありません)。作者は、嵯峨の行為の理由付けとして「臨床心理士として」「臨床心理士だから」という一言を添える衝動を抑えきれないようです。まるで臨床心理士が超法規的な使命を帯びた正義の味方であるかのように。もはや臨床心理士についての啓蒙を逸脱していて、偏執的と感じました。
社会派的な衣をまとうのであれば、それなりの視野の広がりとバランス感覚が求められます。この作品には、そのいずれもが不足していると思います。

また、事件の解決が安易に感じられたのは残念でした。終盤の展開が不自然かつ強引で、中盤までの社会派サスペンスと呼びたくなるようなシリアスな展開から一転、作者の望む予定調和に向かって上滑りしていました。特にひっかかったのは・・・(以下ネタバレ)
嵯峨がいくら高名なカウンセラー(という設定)とは言え、彼の号令の下であのような狂言が演じられるのは不自然です。なぜなら警察は捜査に行き詰っていたわけではないし、嵯峨を疎んじていました。そもそも、警察は真相を知りながら犯人を泳がせていたのだから大きな方針変更をしたことになりますが、これについての説明はありません。また、嵯峨への義理も事件との関わりも無い音楽事務所が、大掛かりな狂言を引き受けるという展開自体不自然だと思います。不自然と感じさせないだけの伏線が必要と感じました。
結局一介のカウンセラーに過ぎない嵯峨に単独で事件の幕引きをさせようとするところに無理があると思いました。
こんな調子なので、犯人を追い詰める嵯峨の鋭い舌鋒ですら疑わしく見えてしまいました(素人なので判断できませんが・・・)。
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  1. 2006-05-03 00:26:18
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千里眼 , 千里眼 ミドリの猿 , 千里眼 運命の暗示 (松岡圭祐)

1作目の『千里眼』はやや独立性が高いものの、ストーリーは一つながりなのでまとめて扱います。

1作目の『千里眼』は第一級の娯楽作品に仕上がっています。登場人物のキャラはバッチリ決まっているし、個々の描写も充実しています。さらに緻密に計算された盛り上げは効果満点。ラスト付近での予想をはるかに上回るダイナミックな展開には度肝を抜かれました。「まいりました!」というのが率直な感想です。

『千里眼 ミドリの猿』『千里眼 運命の暗示』はタイトルこそ別立てですが、実質的に前編・後編です。
ストーリーは『千里眼』からの一連の流れになっていますが、充実感は一気にトーンダウンしています。人物描写は恣意的で大雑把、ストーリー展開もご都合主義。『千里眼』を源流とする物語の結末を知りたいがゆえに最後まで読みましたが、途中でウンザリしてしまいました。『千里眼』以上にスケールが大きくてダイナミック。しかし、部分的にうならされる場面はあるものの、総じて無理矢理で強引。たとえば・・・(以下ネタバレ)
肝心の敵役メフィスト・コンサルティングの手法はあまりにも現実味を欠いています。この作品では全中国人民を暗示にかけていますが、あの程度の仕掛けで強力に暗示できるとは思えないし、できると思い込ませるだけの仕掛けも無い(説得力の乏しい解説があるのみ)。それどころか岬美由紀のデモンストレーション程度で我に返っているわけで、適当というしかありません。というか、岬美由紀のデモンストレーション自体は意表を突かれた感じで面白かったけれど、あれしきのことで中国の首脳が我に返るというのは小説的に手抜きだと思います。ああいう落とし方をするなら、せめて事前に中国政府と岬美由紀に接点を仕込むなりの伏線を張っておくべきでしょう(FAXとかじゃなくて)。また、『催眠』から延々と引っ張ってきたミドリの猿の種明かしも唐突で取って付けたような安易な印象でした。
こちらも豪快な大ボラだと思って読んでいるので、重箱の隅をつつくつもりはありませんが、ホラを吹くならせめて読んでいる間くらいは騙し切って欲しいものです。作り手の都合ばかりが目につきます。

というわけで、第一作の『千里眼』のみお勧めです。
senrigan1-3.jpg
  1. 2006-05-03 00:24:42
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催眠 特別篇 (松岡圭祐)

特別篇とは『催眠』のTVドラマ化、『千里眼』の映画化を受けての改訂版とのこと。

たまたま同じく多重人格を扱った別掲の『症例A』(多島斗志之)と読んだ時期が近くて、ついつい比較してしまいました。あくまでも現実味を重視する『症例 A』と、エンターテイメントとしてのショーアップを意識した『催眠』では肌合いが異なります。また、『症例A』の精神科医やカウンセラーが生々しい存在感を放っているのに対し、『催眠』のカウンセラーはいくらか劇画チックです。シリアスな手ごたえでは『症例A』に軍配が上がりますが、『催眠』も多重人格や精神医療を真正面から描いてそれなりに読み応えがあります。また、シリアスさとエンターテイメント性のバランスの良さに感心しました。

主人公のカウンセラーが多重人格と思しき女性に寄せる異常な執着や手段を選ばない暴走振りについて、説得力のある理由が示されておらず、途中から感情移入が出来ませんでした。おそらく羽目を外しすぎるくらいの熱血漢として描きたかったのでしょうが、わたしには主人公こそ治療が必要な躁病患者に感じられました。作品がなまじシリアスな雰囲気を持っているだけに、主人公の言動の説得力不足はマイナスに感じられました。
しかし、主人公に共感できなくても、スリリングな展開に引っ張られて一気に読まされました。優れたエンターテイメントだと思います。
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  1. 2006-05-03 00:24:37
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