この作品の終盤に、こんなくだりがある(泉が主人公=語り手で、志緒はその友人)。
ねえ、とにわかに志緒がつぶやいた。
「葉山先生って、本当は泉のことが好きなんじゃないの」
ふっと彼女のほうを見ると、彼女の背後に明るい夜の町が広がっていた。これ以前に読んだ島本作品はわずかに2つだけど(『リトル・バイ・リトル』『生まれる森』)、それらによるわたしの島本理生観が、上の3行目の一文に集約されている。文章の淡々として静かな流れを崩さないままに、前景と背景をクロスオーバーさせて、ニュアンスを膨らませるセンスの良い文章表現。
しかし、天性と思える文章の上手さに比して、『リトル・バイ・リトル』『生まれる森』の物語は手薄で抑揚が乏しい。
そんな島本理生が、『ナラタージュ』では人物を、物語を、力いっぱい作り込んでいる。文章の淡々とした佇まいは踏襲されているけれど、言葉の心地良い流れで読み手を魅了することよりも、物語る力で読者に向かってくる。
そのチャレンジは成功しているのか?というと、開始から70%あたりまでは懐疑的だった。淡々とした歩調は、短篇〜中篇ならともかく、この規模の長編では単調や弛緩に堕しかねない。
また、主人公が想いを寄せる出身高校の教師のキャラが平板で、そのために彼女の想いがリアリティを帯びてこない。主人公、ということは作者と年代の近い男性キャラ(高校生、大学生)には実体感がある。一方、一回り年上の高校教師は作り物っぽい。作者の人生経験不足なのか、このキャラを無理に美化しようとしてはずしているのか・・・
ところが、終盤に入って様相が変わる。(以下ネタバレ)
わたしはほとんど入り込めないまま終盤に差し掛かったのだけど、それでも、二人が結ばれる場面〜電車のホームでの別れ〜後日談としての落涙のシーンの3連発には引きずり込まれた。泣きはしなかったけれど。
徹底して女性目線な作品だけに、わたしのは感情移入ではないと思う。それとは別に、作者島本理生のクライマックスにかける気合にしびれた。気合が入っても、上滑りはなくて、言葉はしっかりと噛み締められている。どの登場人物にも入り込めていないのに、それにもかかわらず、文面から溢れ出すはりつめたような、青ざめたような抒情に飲み込まれた。凄い、凄い。たぶん、ずっと後になっても、この終盤の追い込みを忘れないと思う。
男の読者が、同性である高校教師寄りの目線から、あるいはヒロインと高校教師とに同じ距離感をもって、一種の純愛小説として読もうとすると、微妙かも。好悪はともかく、恋愛観に偏りというか思い込みを感じる。個人的には、もっぱら主人公サイドに立って、恋愛の狂おしいまでの切なさに浸る、という読み方がオススメ。
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- 2006-10-05 20:00:29
- 島本理生
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文章力がすごい!こういう淡い文体の作家は少なからずいるけれど、この人はレベルが違います。言葉が濁りなく滑らかに流れるだけではなく、人物の心情と場の空気をナチュラルに織り交ぜて、場面場面のエッセンスを最少の言葉で効果的に表現しています。計算ずくではなくて、天性のセンスの賜物でしょう。
町田康の大長編読了直後だけに、弱弱しく感じられるかと懸念しましたが、杞憂でした。
しかし、それ以外に何があるのか?あとがきによると、苦い恋愛を通して、少女時代との訣別を描きたかったそうですが・・・物語の彫が浅くて、テーマが実体を得ないままに終わっています。
本を閉じた後にあったのは、もっぱら文体の残り香でした。

- 2006-05-01 16:08:24
- 島本理生
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何気にキツイんだけど淡々と流れていく二十歳前の女の子の日常が描かれています。
集中力を持ってテーマを掘り下げていくのではなくて、日常生活での視点を積み重ねることで主人公の心のありようが表現されています。こういうアプローチだとプロットで読者の読み気をつなぎとめるのは難しいので、語り口とか個々の場面の演出の比重が高くなります。難易度は高いと思うのですが、この作家は難なくやり遂げています。二十歳前の作品(主人公とほとんど同じ)ということですが、滅茶苦茶センス良いですねぇ、この人。
きつい状況にあっても不安とか苦しさを押さえ込んで前向きに生きようとするのが人間の健気さでありたくましさであると思いますが(限度はありますけど)、それでも関心の方向性とか何気ない言動に心の奥底がチラチラと顔を出しがち。そのあたりをごく自然にやっていて、理解させるのではなく感じさせてくれます。
この作品だけだとドラマを作り上げていく力量は判断できませんが、才能のきらめきは確かに感じ取れました。

- 2006-05-01 16:08:02
- 島本理生
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