ぶっき Library... 重松清

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読んだものの感想を自由に。



流星ワゴン (重松清)

年配のご婦人が、見ず知らずの若い母親に連れられている幼児の姿に、条件反射的に顔をほころばせる。そんな光景に出くわすと、人の愛する本能の瞬きに触れたような心持になる。これはありがちな光景で、ということは、世の中には愛が溢れているのかもしれない。
でも、人と人とのつながりは愛だけで成り立っていないし、そもそも人は愛だけでは生きていけないから、すれ違ったり、ぶつかったり、そして愛が足りないことを嘆き、ふさぎ込んだりもする。難儀なことだ。

重松清はこういう人間の業みたいなものに正対する。愛とか気持ちが通じ合うことの素晴らしさを信じながら、しかし決して楽天的にならない、あるいはなれない。自分の中の愛に気がつくこと、あるいはそれを伝えることを妨げる何物かに目を凝らし続ける、あるいは目を逸らせない。
ひょっとしたら、無邪気に涙に咽びたい読者にとって、この作家の姿勢は硬派に過ぎるかもしれない。


主人公をエスコートする幽霊親子は、設定上はすわりが悪い。「で、こいつら何なの?」的違和感が最後まで付きまとう。
しかし、彼らの存在はこの作品の重要なキーであり、主人公をひとつの気づきに導く。信じる者に裏切られたり、夢が破れることすら、幸福なのだ。主人公はこの気づきを胸に、最低で最悪の現実に戻っていく。愛を支えるのは孤独な覚醒と確信。


主人公の妻の性癖は、ひょっとしたら時代性を意識した設定かもしれないけれど、個人的には残念。妻に感情移入しにくいぶん、夫婦の葛藤のドラマというよりも、ちょっと困った感じの妻を持ってしまった夫単独の葛藤に感じられて、作品としては一貫しているけれども、もっと拡げて欲しかったなぁ・・・

映画『異人たちとの夏』に落涙し、小説『地下鉄に乗って』を堪能したわたしにとって、この手の小説はツボ。ただし、作家の個性やいくつかの(わたしにとっての)難点のせいか、目頭が熱くなるより、考えさせられた作品。作品に、というよりも、この作家のあり方に強く感銘した・・・かも。
ryuseiwagon.jpg
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  1. 2006-09-20 18:06:54
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ビタミンF (重松清)

家族を描いた7編からなる短編小説集です。タイトルの“F”にはいろいろな意味がこもっているようですが、読者の心にビタミンのように働く小説とのことです。

ありがちだけど重たい問題に直面し、それを乗り越えて行こうとする7組の家族が描かれています。主として父親に視点が置かれています。

とっつきやすいスムーズな文章ですし、いずれも希望を感じさせる締めくくりになっていますが、作者のスタンスはかなりリアルでまっすぐです。おめでたい楽観論・理想論を振りかざしたりコメディっぽくお茶を濁したりしないで家族のすれ違いを直視しています。なので、それぞれの問題の重さはダイレクトに伝わってくるし、エンディングでの希望の持たせ方も至って現実的。読んで元気になるよりは、むしろいろいろと考えさせられました。

小説的に見通しよく整理された世界ですが、押さえるべきところは押さられている感じで、洞察力とか演出力の確かさを感じます。家族を見舞う出来事が我が事のように感じられるし、父親の一人相撲、一人よがり、現実逃避などの心理描写は悲しくもリアル。
特に感心したのは、いくら相手を思う気持ちが強くても、自分と相手との間には性格とか世代とか立場とか性別といったような現実的な壁が幾重にも立ちはだかっていて、注意深く振舞っても相手に伝わるのは思いの断片でしかない、みたいな人間関係の宿命的な理不尽さ、もどかしさ、切なさをキッチリと感じさせてくれるところ。こういうのを読むと「人間が描けてるな~」って思えます。

もちろん7編には出来不出来の差があって、人間関係の微妙さを意識し過ぎて展開まで微妙になってる?と感じられる作品もありますが、全体としての質の高さはゆるがないと思います。

と、かなり持ち上げましたが、個人的には苦手なタイプです。前述のようにリアルで遊びが乏しいので後味はしょっぱいです。なんかもっと元気にさせて欲しいよ~
vitamiunf.jpg
  1. 2006-05-01 16:06:40
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