別掲の『腐蝕の街』の実質的な続編です。全体的な印象は『腐蝕の街』と似通っていますが、不特定多数の者たちに主人公が追われる展開といい、前作より敵の実体がしっかりと造形されて対決の構図が明確になったことといい、こちらの方が仕立てとしては一層大掛かりでドラマティックです。スケールが大きい、と言うほどではありませんが。
前作同様一気に読めました。ヴァーチャルの世界(ネット)と現実世界のオーバーラップのさせ方はやや強引な気もしましたが、もともと近未来という架空の設定に基づく作品なので、傷というほどのことはありません。
この作品の見所は・・・(以下ネタバレ)
現実世界での戦いにヴァーチャルの世界(ネット)と主人公の脳内での戦いがオーバーラップし、最終的に主人公がアイデンティティを失ってしまう、という読者の現実感を揺さぶるストーリー展開です。特に主人公の脳内での戦いにおいて、侵入した敵の人格を駆逐するのではなくそれを受け入れることで打ち克つ、という意表の突き方には感心しました。
欲を言えば、読者の現実感をより激しく揺さぶるような文体・演出を工夫して欲しかったです。シンプルでスッキリとした語り口のせいか、内容のわりに衝撃は薄めでした。たとえば敵人格を内包しながら生活する主人公の不安・葛藤の描写なんかはずいぶん淡白に感じられました。ここをもっと生々しく描けば、クライマックスでの主人公の脳内での戦いが一段と盛り上がったはす。
- 2006-04-30 00:27:07
- 我孫子武丸
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初めて読んだ我孫子作品です。
謎解きの要素もあるにはあるけど、ミステリーというよりは近未来を舞台にしたサスペンスという印象です。アレコレ考えないでスピーディーな展開に身を任せるのが吉。
SFっぽい物々しい描写は無くて、ストーリー展開にあわせて必要事項が簡潔に描写されるだけなのですが、かえってリアリティを感じさせてくれたというか、やけにすんなりと作品の世界に入り込めました。SF好きの人は満足できないかもしれませんが・・・
キャラの設定といい展開といい、ほぼこの手の作品の定石通り。この作品ならではの味は薄いしサプライズは乏しいけど、それだけ気楽に楽しめるし、大幅ではないけどちょこっと読者の予想を上回ってくれるので退屈することはないと思います。終盤には引き込まれました。
ただし敵役のキャラは弱め。
気楽に読み流してもいいけど、丁寧で要領よく作られているのでじっくり読んでも楽しめると思います。よく出来た娯楽作品と感じました。

- 2006-04-30 00:25:31
- 我孫子武丸
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