ぶっき Library... 奧泉光

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読んだものの感想を自由に。



モーダルな事象 (奥泉光)

純文学並に人間描写にこだわった娯楽作品、というのがわたしのツボなんですが、こういうスタイルは意外と少ないようです。奥泉光氏はその数少ない例外。
文学的にはマニアックなんだけど、内にこもっていなくて、この人なりに幅広い読者を楽しませようとする意志が感じられます。そして、練り込まれた文章や作り込まれたディテールはワンランク上の上質感。ことに、この作品では楽しみながら作り込んでいる様が伝わってきます。

ただし物語の展開にはやや不満。
この作品は盛りだくさんです。基本としてのミステリーに加えて(ちなみに文芸春秋「本格ミステリー・マスターズ」の一冊です)、SFとかオカルトっぽい要素があったり、探偵役の元夫婦の気になる関係に、事件に巻き込まれた助教授のダメ男振り、大学の風刺的な描き方も面白いし、さらにお得意の幻覚的な演出が駆使されています。
これだけいろいろ盛り込めば奇想天外に展開しそうなものだけど、物語の展開はかなり安全運転。そして、いろんな要素の相乗効果が今ひとつ。ミステリー小説的な意味合いでは先の展開が気になるけれど、「この小説、どうなっちゃうんだろう!?」みたいなワクワク感が乏しい。
たとえば、SFとかオカルト的な演出は彩りに止まっていて、もともとの設定以上には広がっていかない。探偵役の元夫婦は情報収集するだけで、これといえるような冒険が無い。おまけに、英国かぶれの元鬱病患者という夫のキャラ設定はストーリー上まったく活かされていない。また、遺稿の小説が大ベストセラーになるプロセスはもっと盛り上げられたはず。ミステリーとしても、つまらなくはないものの、サプライズは無かった。
ご本人はハメをはずしたつもりかもだけど、小技の面白さに終始している。大技でビックリさせて欲しかった。

楽しめたのは事件に巻き込まれた助教授のパート。屈折したキャラの面白さはかなりのものだし、自分を乗越えてしまうラストは気持ちよかった。

もしも小説が工芸品であればこの洗練と作りの良さは決定的な魅力になるかもしれないが、小説は小説なわけで、だから読者によって判断が分かれそう。

いろいろ注文を付けたけど、作風はわりと好きです。
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  1. 2006-04-30 12:07:40
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プラトン学園 (奧泉光)

バーチャルリアリティを使った迷宮小説とでも呼んだらいいのでしょうか。中盤あたりまでは、孤島の学園を舞台にしたミステリ乃至は倉橋由美子氏あたりが得意とする不条理系の作品かと推測しましたが、奥泉氏の企みは別のところにありました。すべてはそのための仕掛けに過ぎなかったようです。

作者の仕掛けに多少幻惑されて、その狙いに気がついたときには「なるほど」と得心したものの、手並み鮮やかとは感じられませんでした。読者を混乱させてから作者の企みが明らかになっていく過程が淡々と進行しすぎなんですね。ここではガンガンまくって欲しかった。だから、作者の企みに気がついてもガーンとなれませんでした。

人物造形は手堅くて上手いのですが、こういう超現実的な世界を描くなら、もっとはじけた設定にしたほうが効果的だったのではないでしょうか。奥泉氏なりには崩しているのかもしれませんが、かなり地味に感じられました。この点も、前述のパンチ不足に影響しているかも。

不満を並べ立ててしまいましたが、現実と幻想が交錯するっぽい世界を気軽に楽しみたい方にはお勧めします。文体に凝ることが多いこの作家の作品としてはすごくプレーンな文章ですし、展開にもよどみがありません。一気に読めました。練れた巧さと安定感は抜きん出ていると思います。最終的には不完全燃焼でしたが、それに至る過程では幻惑されることの心地良さを楽しめました。

奥泉ブランドの作品としては軽すぎて物足りないかもしれないけど、軽めのエンタメ小説のつもりで手に取ればそこそこ楽しめると思います。
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  1. 2006-04-30 12:07:16
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新・地底旅行 (奥泉光)

明治時代に舞台を設定した冒険小説。この作家らしい文体のこだわりに文芸の香りは漂いますが、中味は純然たるファンタジーです。

本作でもこの作家のマニアックと言いたいほどの文体や時代性へのこだわりは発揮されています。こだわりの強さゆえにその世界に馴染むまでに時間がかかることが多々ありますが、純然たる冒険ファンタジーである本作では難なく馴染むことができました。一旦馴染んでしまえば独自の世界に遊べます。

登場人物たちは、いかにも冒険ファンタジーらしくデフォルメされていますが、丁寧に造形されていてそれぞれに存在感があります。キャラはこの手の小説らしい類型的な設定ですが、明治時代の日本が舞台なので新味を感じました。特に、語り手を勤める主人公の理屈っぽくて腰抜けだけど自分なりに頑張る人物像は、地味ながら微笑ましく感じました。
この主人公の語り口のおかげで全編軽妙でユーモラスな気分に支配されていますが、中盤での進退窮まったかに思える場面では悲愴感が、終盤にはスリリングな緊張感がというように、場面に応じた気分の盛り上げも決まっています。読み始めてまもなく、登場人物たちが繰り広げる物語の世界に引き込まれてしまいました。
作者の練れた筆致に安心して浸れました。

ストーリー展開には欲求不満が残りました。序盤はやや堅実に過ぎると感じましたがそれなりに楽しめましたし、物語が動き始めた中盤では期待が高まりました。しかし、後半は、息もつかせぬ展開を楽しめたものの、ストーリーとしては落としきっていない感じで不完全燃焼。あとがきにもあるように作者は続編を希望しているようなので、敢えてオチをつけなかった部分もあるのかもしれません。
続編が出るならぜひ読みたいです。
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  1. 2006-04-30 12:06:56
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