ぶっき Library... 荻原浩

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明日の記憶 (荻原浩)

2004年に出版され、2005年に第2回本屋大賞第2位&第18回山本周五郎賞受賞、2006年には映画公開、ということで、荻原浩の名を全国区に押し上げた作品と言えるのか?

個人的にはデビューした頃のテイストが好きで、最近の作品には手を出していなかった。『明日の記憶』の中にも、わたしが好きだった頃の匂いは無い。
でも、筆力の充実はダイレクトに伝わってくる。若年性アルツハイマー病を題材にした、読み応えのある本格派人間ドラマ。計算が行き届いているし、腰の据わった筆致には揺るぎが無い。

話題になった本なので、発刊された頃にネットでいくつかの書評を目にしたが、結末について賛否があった。
なるほど。中盤から後半にかけての自分への信頼が足元から崩れていく恐怖感に対し、結末は甘過ぎるかもしれない。おそらく、病気との闘いに燃え尽きた後の平穏を漂わせる演出意図なのだろうけど、この作家らしい甘口の優しさが、若年性アルツハイマー病の深刻さをうやむやにしているきらいがある。


さてここで、わたし好みの展開を2パターン。

ひとつは、安部公房型シュールで哲学的な展開。若年性アルツハイマー病を、誰もが見舞われる老化→死の凝縮と捉えて、人間であることの意味と危うさをエキセントリックに問いかける。
もっとも、安部公房本人なら若年性アルツハイマー病という固有名詞を使わずに、あるのか無いのか分からない奇病を持ち出しそうだけど。

もうひとつは、東野圭吾型感動ミステリー。若年性アルツハイマー病を告知され捨て鉢になった主人公は、病気に伴う心神耗弱状態を利用して、妹の家庭を踏みにじった怨敵に恨みを晴らそうとする。しかし、病気の進行は想像以上に早く・・・みたいな展開で、緊迫感の果てにやるせなさ、痛ましさが訪れる、感動的かつ考えさせられるミステリー。

などと妄想してみたが、現実に若年性アルツハイマー病に苦しむ方々がいる以上、本来娯楽である小説での採り上げ方は難しいのかもしれない。
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オンライン書店ビーケーワン


  1. 2007-04-02 15:03:18
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僕たちの戦争 (荻原浩)

奇しくもタイムスリップ物が連続しました。現代の若者と太平洋戦争当時の若者がタイムスリップして、生きる時代が入れ替わります。

現代と太平洋戦争当時が交互に描かれますが、どちらも活き活きと描かれていて、戦争を扱った小説にしては随分とっつきやすいです。

時代感覚のズレが巧みに笑いにつなげられていて、何度も笑わされました。特に、現代の若者のカタカナ言葉が誤解されたまま会話が成立したり、戦時下からやってきた若者が現代日本の状況に混乱するくだりは気が利いています。
荻原氏はストーリーの自然な流れの中から笑いを引き出すことの達人ですが、そのぶん笑いが穏当になりがち。でもこの作品ではタイムスリップという思い切った設定が奏功したのか、しっかり楽しめました。

この作家にしばしば感じる不満はドライブ感の弱さ。自然で手堅いストーリー展開を旨としているようなので破綻は少ないのですが、それだけに盛り上げが手ぬるくなりがち。残念ながら本作でもそれを感じました。中盤まではほとんど不満を感じませんでしたが、終盤に入って、失速というほどでは無いのですが、今ひとつ盛り上がり切れません。尻すぼみ。

一つには、終盤に入ってからの戦時中の描写が緩く感じられます。身の危険にさらされ、仲間を失い、恋情を抑え込まなければならない状況が描き出されているはずですが、緊迫感も悲愴感も切なさもいまひとつ。この設定・展開なら読者をドキドキさせたり目頭を熱くさせなきゃ嘘だと思います。多少あざとくなったとしても、読み手を直撃するような演出が欲しかった。

二つ目は、現代に来た若者が朱に交わって赤くなるのは止むを得ないけれど、小説的には彼が現代の日本に感じた違和感をもっと膨らませて欲しかったです(結果として現代日本を受け入れるとしても)。この設定・展開ならそういう方向しかないと思うんですよねぇ。状況に無為に流されがちなために、終盤は存在感ドンドン薄くなっていくように感じました。

丁寧で安定した筆致に心惹かれただけに終盤の盛り上がり不足は残念でした。
とは言え、総合的には楽しませてもらいました。
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  1. 2006-04-30 12:05:47
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メリーゴーランド (荻原浩)

別掲の『神様からひと言』と同タイプの作品。『神様からひと言』がダメな民間企業を舞台にしていたのに対し、『メリーゴーランド』は腐り切った地方自治体(それともこれが標準的な姿なのでしょうか?)を舞台に、主人公の奮闘をコミカルに描いています。

過不足を感じさせない安定した筆致で、安心して読めました。
しかし、残念ながら笑いと痛快さはかなり物足りません。
ユーモア感覚に優れた作家だとは思いますが、緩い笑いに終始しています。日常に潜む笑いを丹念に掘り起こしていこうという意図は分かりますが、丹念さのあまりテンポが緩くなっているのも良くないかと。
「こんなんで大丈夫なのか?」と読者の不安を煽りつつ土壇場で痛快に大逆転、というのがこの作家のコミカル系小説での常套パターンですが、今回は不発に終わっています。あまりにも予定調和的で、意外性が無さ過ぎ。ワクワク出来ませんでした。

コメディであっても明るく楽しいだけで終わらせないのがこの作家のバランス感覚。大成功の後に主人公を見舞う皮肉な展開は、巧いというよりも考えさせられるものがありました。
というか、読み応えあったのはここから。風刺的な意味もありますが、むしろ生きがいとかやりがいをどこに見出すのか、というありきたりだけど重みのあるテーマを見据えているようです。
ただし、前述のようにそこに至るまでの盛り上がりが不発気味なので、その煽りを食っているように感じられて残念。
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  1. 2006-04-30 12:05:24
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なかよし小鳩組 (荻原浩)

『オロロ畑でつかまえて』と同じ広告代理店が舞台になっていますが、続編というほどの密接なつながりはありません。

ヤクザである小鳩組からCIを受注した零細広告代理店の奮闘と、その広告代理店に勤めるバツイチのコピーライター(主人公)の人間的な気づきがコミカルに描かれています。

軽快でユーモラスな語り口はここでも好調ですが、ぬるめの笑いに終始しています。ハメをはずし気味のドタバタ劇だった『オロロ畑でつかまえて』に対し、こちらはヤクザのCIという基本設定こそ意表をついていますが、ストーリー展開そのものは概ね堅実です。人物の造形と描写は魅力的で、個性的な登場人物たちがそれぞれにいい味を出していますが、彼らのキャラとストーリーが連動した笑いはほとんどありませんでした。

そんな感じで、面白くもつまらなくも無いという微妙な印象のまま読み進みましたが、終盤に来て一転楽しませてもらいました。それまでの堅実な笑いが嘘のように盛り上がります。のどかでありながらスリリングという不思議なノリのままエンディングになだれ込みます。ここにきて人物描写も冴え渡って、このシーンで始めて登場した人物(世界的女性ランナーとか)までが魅力的。

これ以降は「欲を言えば・・・」的な不満なので、この作品の欠点ということではありません。
小鳩組のCI業務と主人公の内面的変化の因果関係が乏しい点が物足りなく感じました。主人公の成長を促したのは元妻や娘との関わりで、CI業務は「たまたまそのとき担当していた業務」に留まっているように読めます。主人公は小鳩組の誰の影響も受けていませんし、与えた影響もさほど大きくはありません。主人公は何人かの魅力的なキャラを持った組員たちと関わっているわけだから、主人公だけがリフレッシュして爽やかに終了というのは物足りなかったです。
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  1. 2006-04-30 12:05:05
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神様からひと言 (荻原浩)

食品会社を舞台に、笑いあり、スリルあり、しんみりありの、ちょっといい話風コメディです。きちんとドラマ化ないしは映画化されたらさぞや上質のエンターテイメントに仕上がりそう。見方を変えればこの手のストーリーは小説やドラマや映画などで使い古されているはずですが、無心になって楽しめました。目新しい趣向があるわけではないから、ひたすら作家のうまさとセンスの勝利と感じました。

序盤は緩やかな滑り出しですが、主人公が左遷されて新しい部署に転属されるや俄然面白くなってきます。個性的で凸凹なキャラ設定やドタバタのエピソードはいずれもありがちなパターンですが、すべてが上手く噛み合っていて、わくわくしながら読み進め、何度も笑わせてもらいました。特に、中盤以降の周到な伏線の末にはじける笑いが冴え渡っています。電車の中で本を読みながら笑いをこらえたのは久しぶりのことでした。

サラリーマンの生態や心情が、茶化されながらもかなりリアルに描かれています。作者自身が脱サラ作家だけに、通り一遍な描写ではありません。最後の最後までそんな調子で引っ張って、土壇場でドタバタの大どんでん返し。そして締めくくりはしっとり爽やかに。このあたりの手並みも抜群の上手さでした。

楽しめました。とにかく作者のうまさとセンスに脱帽です。
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  1. 2006-04-30 12:04:43
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ハードボイルド・エッグ (荻原浩)

チャンドラーが描く探偵に憧れる、冴えない探偵の冒険物語。サスペンスやミステリーの要素もありますが、基本的にはユーモラスでほのぼのとしたエンターテイメントだと思います。ユーモアたっぷりの語り口で、ラストにはちょっとした“ほろり”もあります。

わたしが知っている範囲では、海外作品に同種の作品があったと思います。それらの作品と比べて取り立てて新味はありません。また、微温的な笑いに終始している印象で、全編にユーモアが張り巡らされているわりには笑えませんでした。しかし、人によって笑いのツボが違うので、一概には言えないでしょう。もっとも、毒と優しさを併せ持ったユーモアはなかなか魅力的で、狙ってできることではないと思います。ユーモアを多用すると人間観とか価値観が浮き彫りになってしまうので、書き手にとっては意外とリスキーですが、萩原氏は難なくクリアしていて好感が持てました。

描かれている事件が地味なのと、のんびりムードで進行するのとで、サスペンスの要素は弱いです。終盤に来てようやく急展開になりますが、全体的にまったりしています。一気に読ませる!というような勢いは感じられませんでした。読んでいる最中は何度かまだるっこしく感じました。しかし、読了後に振り返ってみると、冒頭で述べたようにサスペンスやミステリーがメインの作品では無さそうなので、ある程度の緩さは致し方ないのかもしれません。もちろん、笑えて、心温まって、かつスリリングであることが理想ですが・・・
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  1. 2006-04-30 12:04:22
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オロロ畑でつかまえて (荻原浩)

山村の村おこしを題材にしたドタバタ喜劇。この作家の出世作です。

脚本家の三谷幸喜氏の作風を連想しました。現実的な設定の舞台に現実離れした(ありえないような)事件を引き起こし、そこで繰り広げられるドタバタ劇を笑いと涙とスリルを交えて描きつつ(ただし『オロロ畑でつかまえて』に関しては涙はありません)、最後はどんでん返しとともに開放的なカタルシスで締めくくる。このタイプの作品は登場人物も作者も綱渡りの連続で、難易度が高いと思います。
後述するような物足りなさはありますが、破綻無くまとまっていると思いますし、この手の作品に欠かせないユーモラスで人懐っこい空気がよく出ています。狙ってできることではないので、貴重な持ち味と感じました。

筋立て自体はうまくできていますが、全体的に書き込みが不足しているようです。そのために、このタイプの作品特有のいい雰囲気は出ていますが、雰囲気止まりで手ごたえには至りません。
村の青年会のメンバーをせっかく個性派ぞろいの設定にしながらも、そのごく一部にしかスポットライトが当たっていないのはもったいない気がしました。もっともっと読者をドキドキワクワクさせられたはず。

また、最後の幕の引き方は不完全燃焼でした。というのは・・・(以下ネタバレ)
人気美人アナウンサーを村に嫁入りさせてどんでん返しという展開にするのであれば、そこに至るまでの過程でいくらでも面白い場面が作れたはず。やり方によっては、メインのウッシー捏造以上に盛り上がったはず。嫁入りがオマケのエピソードならあっさりした扱いはありだと思いますが、どんでん返しの肝に据えるからにはじっくりと書き込んで欲しかったです。ちょっと拍子抜けで、もったいなく感じました。

総合的には、後の作品につながる天性のとも言えそうな語り口は十分に楽しめました。
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  1. 2006-04-30 12:03:43
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