流儀としては古典的な人情路線なんですけど、愛情とか友情とか優しさといったような人間の心の美しさに寄せる作者の信頼感が半端じゃないので、完全に独自の世界になっています。人間の心に美しい部分があること、それを描き出せば読者を幸せに出来ることに関して迷いや躊躇は微塵も感じられません。「じんわり」とか「何気なく」とかではなく、大手を振って怒涛のようにのしかかってきます。個々の作品の出来不出来以前に、浅田節に共鳴できるかどうかで読者の選択は決まりそう。
ベースになっているのは主人公と家族の確執。地下鉄とその施設がタイムトンネル的な役割を果たして(でもSFとは到底言えません)、主人公は過去に遡り家族をめぐるさまざまな場面に立ち会います。その体験を通して凍りついた家族への感情は次第にほぐれていきます。このあたりのプロセスは予定調和的で先読み可能でしたが、過不足の無い文章と堅実だけど飽きさせない展開で、読者の気を逸らしません。それに活き活きと描かれる過去の東京の街や人々がやけに魅力的。
何気なく進行させているようですが、重要人物である父親の現在を直接には描かないで、他の人物のセリフと主人公が出会った過去の父親の姿のみで人間像を構成していくなど、演出にいろいろな工夫が凝らされています。
後半には小さい「えっ!?」と大きな「えっ!?」が用意されています。大きな「えっ!?」の方は、しょっぱなは唐突な展開に感情がついていけませんでしたが、ドラマティックで心に残る場面でした。
滅茶苦茶情緒的な物語ですが、表現方法は全然ウェットではありません。引き締まった力のある文体だし、場面ごとの処理も簡潔で締まっています。この取り合わせが凄くマッチしていて、安っぽい感傷に流れることがありません。
読後に余韻を残してくれる佳品でした。
- 2006-04-29 17:28:37
- 浅田次郎
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シリーズ第4弾。大団円の完結編です。
このシリーズのメインは流行作家である主人公の癒しと再生の物語。3巻かけてじっくりと描かれてきましたが、注文どおりの綺麗な締めくくりでした。正直言って笑いと涙の人情路線は少々食傷気味になってきたところなんですけど、メインの部分は丁寧に扱われていて素直に感情移入できました。奇麗事なんだけど、その奇麗事を正面切って描破出来るっていうのは凄いことだろうなぁ。
メインの流れにいくつかのサブストーリーが絡んでいますが、こちらはちょっと食傷気味でした。基本的に力ずくの人情路線で作者の作為が透け透けですから、4巻目ともなるとお腹いっぱいって感じで。特にこの巻では強引さを感じました。シリーズ完結のご祝儀かもしれないけど、安易にハッピーエンドが乱発されているような・・・
ひねくれ者のわたしはベタなハッピーエンドが嫌いなので、ちょっと辛口になっているかも。
この作品あたりまで来ると人情&涙路線のベタベタさ加減に好き嫌いが分かれそうですが、シリーズ全体を見通すと、万人向けの良質なエンターテイメントと感じました。

- 2006-04-29 17:06:05
- 浅田次郎
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シリーズ第3弾。
基本的には前2作で出来上がった路線の延長線上です。ストーリーとしては『秋』よりおとなしめですが、舞台が極寒の山奥のホテルなのでこんなもんかな。
ただしシリーズ全体の中ではターニングポイントとなる重要な作品。甘ったれの主人公の作家がここで一山越えました。
主人公の愛人清子は第一作から出ずっぱりですが、この作品でようやく脚光を浴びます。わたしの限られた読書体験の中から探すと、どことなく『罪と罰』(ドストエフスキー)の清純な心を持つ娼婦ソーニャを連想させる特殊なキャラで、底知れない包容力の持ち主。非常識なまでに男にとって都合の良いキャラで、いかにもフィクションの世界の住人といった風情ですが、とにもかくにも印象的な人物像に仕上がっています。彼女が活躍するクライマックスは、シリーズ中最も印象に残る場面でした。
何人かのゲスト出演者についても癒しとか再生のストーリーが展開されますが、いずれも中途半端というか、説得力不足というか、オチ切っていないと感じました。「いじめ」とか「尊厳死」といった結論しにくい題材を選択してしまったのが原因かも。

- 2006-04-29 17:05:25
- 浅田次郎
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シリーズ第2弾。
前作の路線が継承されているというか、より色濃くなっています。
登場人物に関しては、前作で活躍したレギュラーメンバーのキャラは一層磨きをかけ、前作では存在をほのめかされただけのいくつかのキャラをクローズアップし、さらにゲストキャラを交えてにぎやかに盛り上げています。
ヤクザの経営するリゾートホテルに警察関係の団体客と任侠関係(ヤクザ)の団体客がかち合うという設定自体はスリリングだけど、その後の展開はいかにもという予定調和的人情路線。それでも最後までまったく気持ちはそれませんでした。「またこのパターンか」と分かっていても作者の掌中に落ちてしまいます。強引なまでの“がぶり寄り”的人情路線ですが、それでもツボはしっかり押さえている感じで、引き込まれてしまいました。盛り上げ方はけっこうベタですが、盛り上がりの後処理が簡潔でスッキリしているので後味は意外と爽やかと言うか、爽やかは言い過ぎとしても変に後をひきません。そのせいか、基本は古典的な人情路線でありながら古臭いという印象はありません。
主人公の作家の心境の移り変わりはシリーズの背骨の1つですが、前作ではゆがみばかりが目についたこの人物の心に、心の雪解けの気配が表れました。こうしたシリーズとしての運び方は巧みだと思います。主人公の行く末に対する思いはいやがうえにも高まります。
部分的に力ずくな感じを受けたものの、この作家のスタイルとかシリーズのカラーがより鮮明になって、前作以上に楽しめました。

- 2006-04-29 17:04:54
- 浅田次郎
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シリーズ第1弾。
ヤクザの経営するリゾートホテルで繰り広げられる人情たっぷりのコメディ。映画の寅さんとかつりバカ系のノリです。コメディとしてはベタというか古典的なのですが、思いっきりこの路線に徹しているので気持ちよく楽しめました。新鮮で無いと言っても日本人の笑い&涙の王道なので、こんな風に手際よく演出されたら面白いです。
ヤクザの親分が人格者でかつ当たり前のように癒しと再生のドラマが繰り広げられるという展開自体はかなり作り物っぽいのですが、ヤクザの経営するリゾートホテルという型破りな設定による面白さが随所にあるので、「細かいことはどうでもいいかぁ〜」って感じです。もっとも、こういうのはだんだんと鼻についてくる危険がありますけど。
登場人物が活き活きと魅力的に描かれていて、誰もが身近に感じられました。
いろいろな登場人物の癒しと再生のドラマ自体はお約束どおりの展開ですが、人物の心境変化が手堅く描かれていて、エンディングで唐突に吹っ切れたり和解するみたいな強引さというか安っぽさはありません。それなりには感情移入できました。
シリーズになっているようなので、未解決の項目もあったりして(特に主人公である作家の屈折した心理は解きほぐされないまま)結論めいたことは言えませんが、次作以降に期待を持ちました。主要キャラが活き活きと登場し、シリーズの方向性が明解に提示されています。シリーズの“つかみ”としては成功していると感じました。

- 2006-04-29 17:03:04
- 浅田次郎
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