癌にかかった恋人(女性)を亡くなる直前に海外に連れていく、というどっかで聞いたことのあるストーリー展開。まあしかし類書を上回れば良いわけで、ありきたり=悪とは限りません。
人物造形の甘ったるさは相変わらず。とりわけ中学時代の万引きを“原罪”などと称してしまうチャチな人間観はなんなんでしょう!?
でも、たとえばモデルに対して非情になり切れない自分に落ち込む、というような日常の中での心理描写にはそこそこ説得力を感じました(結局オチは・・・ですけど)。失礼な言い方かもしれませんが、人生を奥深く描こうなんて分不相応(!?)なことは考えないで、この種の日常的な描写に徹した方がいいんじゃないでしょうか。日常的な描写の中にも突っ込みたくなる部分は点在していますが・・・
この小説が真価を発揮し始めるのは恋人が発病してから。作者の気合が伝わってくるようで、緊張感が高まります。期待は高まりましたが胸を揺さぶられるような場面には行き当たりませんでした。いい感じで盛り上がりかかったのですが、会話と語り(一人称語り)の雰囲気だけではきついです。
でも、この作家の最良の部分が出ているような気はしました(これを含めて2冊しか読んでませんが・・・)。
終盤にゆかりの地でも思い出の地でもないニースに行かせるという展開はどうなんでしょう?どこに行こうと勝手だけど必然性は低い。『セカチュー』のオーストラリアと同じパターン。
というか、そもそも恋人は女性カメラマンという設定なのだし、せっかく作中で彼女の個展を開催するというアイディアを出しているのだから、そっち方向で膨らませるべきだったのでは?個展の成功を目のあたりにし、個展開催に奔走してくれた恋人(主人公)や友人たちに見守られながら静かに息を引き取る、みたいな展開の方がはるかに入り込めたと思います(わたしの好みなんですけどね)。
- 2006-04-30 12:00:25
- 大崎善生
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この作家も春樹チルドレンなのかな?かなりそれっぽく感じました。プロフィールによると村上氏と同世代のようだから、チルドレンというのも変かもしれないけど・・・
記憶に対する考察とかパイロットフィシュの使い方なんかには「なるほどなぁ、そうかぁ」と思わせるものがありました。
精神的に幼稚な主人公(依存心が強くて、当事者意識が乏しくて、とかく成り行きに任せがち)とそれを取り巻く保護的な女性たちや先輩たち、というありがちな甘えの構図があって、このあたりは好みが分かれるかも。個人的には安っぽく感じました。
ストーリーはスムーズに展開しているけど、ディテールは流し気味。深く読んでしまうとちょいちょい突っ込みたくなりそう。このあたりは読者のスタンスによって好悪の差が出そうですが、さすがに主人公と昔の恋人との破局のくだりはご都合主義がむき出しで、どうかと思いました。
読んだ人じゃないと分からないでしょうけど、七海(主人公=語り手の恋人)の存在は興醒めだし、かえってドラマを散漫にしていると思う。これではセックスシーンを描きたいがために若い女性を引っ張り出したとしか思えない。どうせやるなら、せめて可奈を主人公=語り手の恋人にしてしまうくらいのチャレンジをすべき。
読んでいる過程で感心した点もあったけど(読みやすい文体とか雰囲気豊かな演出とか)、このタイプの作品では拒否反応が先に立ってしまいます。

- 2006-04-30 12:00:03
- 大崎善生
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