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読んだものの感想を自由に。



ジェシカが駆け抜けた七年間について (歌野晶午)

女子マラソンの世界を舞台にしたミステリー。

この作家は変則的な語り口で読者と駆け引きするスタイルを好みます。この作品もその1つ。変則的であるがゆえにリスクがあります。はずすとダメージが大きくなります。
『ジェシカが駆け抜けた七年間について』は、好評を博した『葉桜の季節に君を想うということ』と似通ったパターンを採っていますが、残念ながら精彩を欠いています。

叙述トリックを用いているのは良しとしても(個人的には好きではないけど)、犯罪やトリックが単純すぎて拍子抜けしました。「えっ!これで終わり!?」というのが後味でした。ジェシカを初めとした女子マラソン界の内情は印象的に描かれているので、なおさら謎解き部分の薄さが目につきました。女子マラソン界の内情に触れていると言っても、叙述トリックという手法を使っている以上、謎解き部分の薄さがそのまま読み応えに直結してしまいます。謎解きの枠組みが優先されているので、感動的なヒューマン・ドラマにもなりきれてない。「謎解きはイマイチだったけど、女子マラソンの描写はよかったね」というほどではありません。

また、わら人形もどきの場面や2つめの章全体から受けるハラダアユミの印象は「何を考えているか分からない変な女」なので、ジェシカがハラダアユミに寄せる思いに同調しにくかったです。これも感動的なヒューマン・ドラマにもなりきれなかった一因だと思います。
jecikaxkakenukata7nen.jpg
  1. 2006-04-30 07:13:50
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葉桜の季節に君を想うということ (歌野晶午)

ミステリーの分野では実力派の作家と思っていましたが、一般受けしにくいタイプの作家とも思っていました。それだけに、この作品が読者から高く評価されたことは驚きでした。
この作家の実力が発揮されているという意味では、『ブードゥー・チャイルド』とか『世界の終わり、あるいは始まり』あたりと比べて、特にこの作品が抜きん出ているとは感じません。この作品に特別なものがあるとすれば、驚きの大きさ。この大どんでん返しにはめまいを覚えました。その鮮烈さが強く支持されたということでしょうか。

近年の歌野氏は、作風の面ではミステリーの枠を越えようとしながらも、小説自体からは根っからのミステリー作家であることが伝わってくる、というユニークな作品を立て続けに発表しています。
『葉桜の季節に君を想うということ』の手法は叙述ミステリーに似ていますが、一般的な叙述ミステリーにおいてはまぎらわしい叙述は手段なのですが、この作品ではそれが目的になっています。描かれる犯罪なり事件はそのための道具に過ぎない。歌野氏が発明したアプローチということは無いと思いますが、ここまで徹底した例は稀なのではないでしょうか。

あまりにも念入りな仕込みと大どんでん返しのタイミングの良さにビックリ仰天させられますが、引っ掛けのネタ自体は滅茶苦茶ベタなので(ある意味おやじギャグ的)、下らなく感じる人がいるかもしれません。

いくら面白くても、これだけなら軽めのユーモラスなミステリーで終わっていたかもしれません。それだけで終わらせないのがこの作家の上手さ。前述のように引っ掛けのネタ自体は滅茶苦茶ベタなのですが、これをスムーズに主人公の人生観やら今日的な話題につなげていくことで作品に品格を与えています。補遺も心憎い演出。

ただし、この部分はちょっと気になるところがありました。というのは・・・(以下ネタバレ)
ラストでの「俺」が節子に自首を勧める場面では、場面の性格上止むを得ないとしても、何人もいる彼女の間接的な犠牲者に対する配慮が乏しかったのは物足りませんでした。彼女は加害者でもあり被害者でもあったわけで、落とし所は微妙だとは思いますけど。
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  1. 2006-04-30 07:13:44
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世界の終わり、あるいは始まり (歌野晶午)

これは好き嫌いが分かれそうな作品。

基本的にはミステリー的な謎解きの楽しさを追及した作品だと思います。あるシチュエーション(一連の事件)と、それについての考えうる解釈が次々と示されていきます。どれが正解かということよりも、さまざまに解釈することを楽しむ作品だと思います。そうした作者の誘いに乗れるか乗れないかが分かれ目だと思います。鑑賞するような受身な姿勢で読むと、人物の描き方が物足りなく感じられるでしょうし、何よりもあの終わり方には欲求不満が残りそうです。

ただし、ゲーム性だけの作品ではありません。誰しも思いがけず犯罪の当事者になりかねないという現代的な恐怖感が巧みに織り込まれています。ひょっとしたら、作者の狙いとしては謎解きの楽しみも現代的な恐怖感も等しくメインテーマなのかもしれませんが、作品から受ける印象では謎解きのゲーム性が優勢です。だから、読み手がリアリティを追及してしまうと前述のような不満が出てくると思います。

この作家は変則的な語り口で読者と駆け引きすることを好みます。この作品もその1つだと思います。変則的であるがゆえに、読者が作者の意図とは異なる展開を期待し、結果失望してしまうリスクがあります(うまくいけば「まいりました!」ですが・・・)。『世界の終わり、あるいは始まり』にはそういう危うさを感じます。結末を読んで(というか結末間際で嫌な予感がしてしまいました)「なるほどね・・・」と一応得心したものの、もやもやした感情が残りました。
sekaixhajimariorowari.jpg
  1. 2006-04-30 07:13:04
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安達ヶ原の鬼密室 (歌野晶午)

力作『ブードゥー・チャイルド』に続く長編。シリアスな人間ドラマだった前作から一転、ミステリー的なアイディアと遊び心が感じられる作品です。
共通点を持つ3つの独立した物語からなる長編という異色作。3つの物語は単純に直列しているのではなく、1つの物語(これが最も長い)を、他の2話の前編後編がサンドイッチのように挟み込む構成になっています。音楽でいうところのシンメトリーが形作られています。ミステリーでは珍しいんじゃないでしょうか。

3つの物語は設定も雰囲気もまったく異なりますが、巧みに描き分けられています。のどかな子供の絵日記。留学生が米国で遭遇した事件はカラッとした雰囲気。メイン(サンドイッチの中心)の戦時中の物語は古典的なおどろおどろしさ。子供の絵日記は、子供にしては理路整然としすぎているようにも感じますが、許容範囲だし、むしろ小説としてはこのくらい整っている方が読みやすいです(ただでさえひらがなが多くて読みづらいから・・・)。

戦時中の物語の大掛かりなトリックには感心しました。わたしはまったく思いつけませんでした。

個々の物語の中での謎に加えて、3の物語の共通点を模索しながら読み進むことになります。そして、個々の物語の中での謎の解明が、この構成上の謎の解明につながっていきます。謎の多重構造です。
すべてに気が付いたときはにんまりさせられますが、残念ながらにんまり以上のものはありませんでした。というのも・・・(以下ネタバレ)

3の物語はトリックの共通性で関連付けられているのですが、これだけだと小説としての感銘には至りにくいと思います。結局はアイディアの一発勝負なので、この共通点に気が付いたときはにんまり出来るけど、その興奮は短時間で醒めてしまうしあまり長続きしません。そして、前述のように3つの物語のトーンがバラバラなので、それぞれが打ち消し合ってしまい、読了後の印象は曖昧模糊としてしまいます。
3つの物語を単純に直列した場合と(長編、中篇、短編からなる連作ミステリーとした場合)、どちらが面白くなったか思わず考えてしまいました。

もっとも、作者はただにんまりさせたいためにこの凝った長編を書き上げたのかも。
adatigaharaxonimissitu.jpg
  1. 2006-04-30 07:12:40
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ブードゥー・チャイルド (歌野晶午)

読み応えがありました。デビューからの数作がピークというミステリー作家が多い中、着実にポテンシャルを上げている歌野氏は注目だと思います。ちなみに『ブードゥー・チャイルド』はデビュー作『長い家の殺人』から10年目の作品。

ミステリーの謎解きに人間ドラマを絡ませた点、とくに人のあり方を問うような題材を扱った点が前作『Rommy』と共通していますが、消化不良が感じられた『Rommy』に対し、『ブードゥー・チャイルド』は堂々と描き切られています。ミステリーの枠を取っ払っても十分に楽しめる作品に仕上がっています。

というか、謎解きの部分はむしろシンプルで、おまけに作者がかなり積極的(?)にヒントを出してくれるので、ミステリーとしての性格はかなり弱くなっています。具体的には・・・(以下ネタバレ)

読者が代理出産に関して聞きかじっていれば、序盤で事件の全貌が見えてしまいます。執筆当時のことは分かりませんが、現在(2004年)ではさして新鮮味のあるネタではないでしょう。しかも、代理出産を素材のまま物語の核に据えていて、ほとんどひねっていません。ミステリー的な楽しみは乏しくなっていますが、代理出産というテーマの重さを読者に投げかけるには、あまりひねらない方がいいのかもしれません。

わたしのように序盤で事件の全貌がつかめてしまうと、ミステリーというよりも代理出産をめぐる人間ドラマとして読むことになりますが、そこからがこの作品の本領発揮となります。
性同一性障害という代理出産と同じく身近ではない重いテーマを扱った前作『Rommy』では、読者をテーマに引き込み登場人物に感情移入させる演出が物足りませんでした。その演出が『ブードゥー・チャイルド』では念入りです。試験管ベイビーであり障害を持つ天才少年を探偵役とし、彼を通して読者に十分に情報(人工的に産み出された者の心情を含めて)が与えられます。また、代理出産に踏み切った主人公の両親や、代理出産を受け入れない祖父母らの描写も効果的。読者はこれらを通して自ずと代理出産に思いをめぐらせてしまいます。

前述のようにオチが見えていたので衝撃とかグッとくるものはありませんでしたが、読了後の手ごたえは十分でした。
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  1. 2006-04-30 07:12:04
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Rommy - 越境者の夢 (歌野晶午)

ミステリーの謎解きに人間ドラマを絡ませた意欲作です。ミステリーも小説ですから人間ドラマが絡むのは当然のことですが、主人公が作った詩を各章に配すなどかなり積極的に演出されています(この演出をうるさく感じる人もいるでしょうが・・・)。しかも、謎の解明(というか大どんでん返し)とドラマのクライマックスが自然かつ必然的に結びついていて、この作家らしいバランスの良さが感じられます。

音楽業界が舞台になっています。くどくどとした業界についての説明・薀蓄の記述はありませんが、ストーリー展開の中で自然に雰囲気やら体質やらを描き出しています。手際とセンスの良さを感じました。

ミステリーの仕立ては、一旦事件が解明されたと思わせておきながら、最後に本当のクライマックスが待ち受けているという心憎い演出です。突飛だけど強引ではありません。

人間ドラマとして深く掘り下げようとする姿勢には共感しました。新本格の作家は往々にしてこういう題材を単なるネタとして扱ってしまいがち。これでは推理としては本格でも小説として本格とは言えないと思います。

ただし感動は今ひとつというところでしょうか。いろいろと演出はあるもののRommyというキャラに感情移入しにくいです。というのは・・・(以下ネタバレ)
Rommyは、性同一性障害に加えて性転換手術の犠牲者という難しい設定。こうしたことに縁のない者にとっては感情移入が難しい。詩やエピソードを散りばめるなどの演出はありますが、全体的にさりげなさ過ぎると思います。もっともっと踏み込まないと共感しにくいです。
このことに関連しますが、Rommyと中村の過去のエピソードをさらに積み重ねる必要があったと思います。Rommyが性同一性障害という設定なわけで、2人の間にある感情は恋愛とも友情とも割り切れない複雑なものであるはず。そういう微妙なニュアンスが伝わってきません。現状では読者を2人に感情移入させ切れないと思います。
rommy.jpg
  1. 2006-04-30 07:11:26
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さらわれたい女 (歌野晶午)

狂言誘拐が描かれています。

序盤からスピーディーかつ予断を許さない展開で楽しませてくれます。「予断を許さない」と書きましたが、物語の方向性はある程度想像出来ました。それでも、個々の場面にはちょっとした意外性が仕掛けられていて、しかもラストまで息切れしません。ミステリーの要素とサスペンスの要素が効果的に興味を刺激してくれて、どんどんページをめくってしまいました。
小説としてのまとまりやバランスも良くて、破綻が感じられません。ストーリー展開は刺激的でありながら無理が感じられません。場面や人物の描写も必要十分で、気持ちよくすんなりと読み進めました。

手際よく作られていますが、読了後の手ごたえみたいなものはありません。「あ~、面白かった」で終わり。
小技的などんでん返しはたくさんありますが、大どんでん返しはありません。むしろ、落ち着くところに落ち着いたって感じ。また、視点とか文章もスッキリと分かりやすいかわりに、目を引くような個性は感じられませんでした。登場人物も類型的だしキャラの色づけはあっさりしています。

余韻は乏しいですが、そのかわり読んでいる最中は時間を忘れさせてくれました。軽めの娯楽作品ですが、軽薄というわけではない。こういう小説はわりと好きです。
sarawaretaionna.jpg
  1. 2006-04-30 07:10:47
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