松尾スズキの2冊目の小説本にして処女長編小説。
物語としての完成度は低いけど、語り部としての圧倒的な才能が迫ってくる。特にお尻の2つの章でのドライブ感はすさまじい。この段階で物語は破綻し、作者自らそのことを宣言し、その上で畳み掛けてくる。ストーリーで読ませるとか、キャラの魅力で読ませるとかの手練手管を投げ出して、松尾スズキ本人の語る力で読み手に立ち向かってくる。創作者として、エンターティナーとしての凄まじい才能と自負と生き様。
終盤と並んで読ませるのが、二段組で64ページに及ぶ長すぎるプロローグ。自称「セリフ家」の小説に対する屈託が面白いし、俳優・タレントとして自身を売り物にしている人らしい押しの強さや開き直りは、専業作家たちの毒気を抜いてしまう。
独立した短篇小説として通用しそう。
それ以外の部分、つまり破綻を迎えるまでの本編部分は、噺家or講談師風三人称語りで、しつこい笑いやナンセンスでグロテスクな描写が延々。面白いことは面白いけれど、しつこくて、粘っこくて、濃くて、ちょっと疲れる。作者のファンとかエログロ・ナンセンス話好きでなければ、毒気にあてられてしまうかも。
インタビューによると、本作品は連載小説で、連載ごとに一山設けた結果、濃密な仕上がりになったらしい。
着手時期を基準にすると、本書は松尾スズキの初小説。すでに他の分野で一定の成功を収めている彼は、培ったノウハウを小説の分野に軟着陸させる、というような安全策を採らず、むしろ「松尾スズキが書くからには、通り一遍の小説にはならないよ」とでもいうように、強烈な自意識とかケレン味とか表現意欲をぶつけている。その結果、小説というジャンルと格闘する松尾スズキのドキュメント、とでも言いたくなるような性格を帯びていて、小説としては破綻しているけれど、小説という枠に収まらない面白さが生まれている。こういう面白さを出せるのは、松尾スズキ個人に表現者としての魅力とかカリスマ性があるということだろう。本書を読んで、それを実感した。
少なくとも、小説家松尾スズキと今後付き合うつもりの読み手には必読の書、でしょう。
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オンライン書店ビーケーワン
- 2006-10-22 21:16:29
- 松尾スズキ
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第134回芥川賞候補作。なので純文学かと思ったけど微妙。饒舌な語りは純文学風と言えなくはないけど、人物の描き方とかストーリーは完全にエンタメ。『文學界』に掲載されたということで芥川賞ノミネートなのかも。
もちろん純文学でなくてもまったく問題なくて、実際楽しませてもらった。
主人公はフリーライターの女性で、(本人にとっては)ひょんなことから精神病院の閉鎖病棟に強制入院させられてしまう。
彼女の語りは饒舌で、語られる内容には精神科的な意味でのグロさがあるけれど、そのわりに語り口に狂気が感じられなくて、むしろ読み手に対するサービス精神が旺盛。良くも悪くも、作者のエンターティナーとしての資質が前に出ている。
当人に自覚が無いとは言え、薬物の過剰摂取は事実だから、狂気の片鱗か、あるいはそれに対する恐怖感、なんてものを語り口ににじませてくれると嬉しかった。
それ以外の点では満足。舞台や映画を手がけているから話し言葉で物語を構築するのはお手の物だろうし、エンターテイメントの最前線で活躍している人らしいツボを押さえた演出が楽しい。
個性的で面白いキャラクターが続々登場するし、ひとり語りや会話の面白さもバッチリ。あちらこちらで笑えて、程好く毒があって、心温まる展開もあって。とてもよく出来た娯楽作。
でも、冒頭のゲロのシーンは気持ち悪い。こんなシーンばっかりだったらどうしよう!?と不安に駆られたが、幸いにして杞憂だった。

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オンライン書店ビーケーワン
- 2006-07-21 08:36:24
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