物語シリーズの第9弾。
ストーリーの流れとしては『囮物語』の続編。つまり千石撫子の物語。ただし、千石撫子の内面は『囮物語』で深堀りされていて、本作ではそのあたりは軽め。
内面のドラマとしては、語り手である詐欺師の貝木泥舟の、主にヒロイン戦場ヶ原ひたぎに対する感情に軸足が置かれている。
敵役であった貝木泥舟が、実は戦場ヶ原ひたぎを思いやっていたらしいことが明かされる。
さらに、千石撫子と対決するクライマックスでは、キレた中学生にまともな説教を垂れるという役回りを演じて、キャラのイメージを一新。
貝木泥舟というキャラは、これより前の作品では便利に扱われてきた感じ。
『花物語』でようやくちゃんとした人格を与えられたということだけど、いかにも子ども向け小説に出てくるおっさんキャラという感じ。若造が年寄りぶってる、みたいな。
一般小説として読むと、そのあたりが薄く感じられるけれど、作者が意識している読者層にはこれでいいのだろう。
なにしろ『囮物語』の続きが気になっていたから、キレイにオチをつけてくれたことに満足、納得。

- 2013-09-29 19:22:25
- 西尾維新
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物語シリーズの第8弾。
忍野忍(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)の1人目の眷属のことが明かされたり、エンディングが主要キャラの一人である八九寺真宵の一大転機になっていたりと、そそられる内容になっている。
ただし、小説の読み応えとしては、このシリーズの中では低いと思う。
1人目の眷属のことは、忍の延々と続く語りの中で明かされるばかりで、本編のストーリー展開との絡みは弱いし、エピソードとしてもそんなに面白くない。
面白くないといっても、謎の「くらやみ」の正体知りたさと、忍の1人目の眷属についての興味から、読まされてしまう。読まされた結果、やや肩透かしというところか。
忍の処女性が判明すること自体は、大きいことかもしれないけれど。
八九寺真宵を巡る物語のオチは、なかなかショッキングだったけれど、謎の「くらやみ」というご都合主義的存在ゆえに、ストーリー展開上の盛り上がりはいまいちだと思う。
作者は故意に透かしたのかもしれないけれど・・・

- 2013-08-31 15:04:05
- 西尾維新
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『物語』シリーズの第7弾。
千石撫子の一人語り。
語り手の内気でおっとりとしたキャラを反映して、語り口としては、陰か陽とで言えば陰。ストーリー展開も鬱かな。
可愛いけれど、地味で内気な千石撫子を深堀りすると、こうなってしまうのかな。シリーズ全体の流れがあるから、撫子が能天気キャラに豹変、みたいなことはし難いだろうし。
終盤の畳み掛ける展開は見事なものだけど、千石撫子の幼稚な人間性が火を吹く!という展開なので、読んでいて気持ちの良いものではない。オチは先送りになったわけだし。
そんな感じで、楽しい気晴らしの読書には向かないテイストだけど、一旦読み始めると、最後まで読まされてしまう。作家のうまさに抗い難い。
語り手の幼稚で内にこもりがちな性格は、最終的にはヒステリックに暴発するけれど、途中の段階ではうまい具合に笑いにつなげられている。特に阿良々木月火とのやりとりは笑えた。
また、叙述トリック風の読み手との駆け引きもうまい。のんびり読んでいたせいか、種明かしされるまで気がつかなかった。
結局、読後感としての爽快感はもうひとつだけど、作品としての出来はシリーズ中でも上位を占めるような気がした。

- 2013-08-05 01:18:20
- 西尾維新
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今更ながら、『1Q84』を読了。
以前に村上作品を読んでからずいぶん時間が流れたので、あいまいな記憶にすぎないけれど、村上春樹の三人称視点による語りとしては、これまでになくすんなりと読めた気がする。
過去の村上作品を知る者にとっては馴染みのあるキャラが揃っていて、そのぶん作者も気持ちを入れやすかったのではないだろうか。三人称視点になっても、よそよそしさは感じられなかった。これだけの大長編にして。
このことが、最大の収穫ではないだろうか。大したことないように聞こえるかもしれないが、もともと一人称語りの名手なので、読者の期待値は自然と高くなる。その上でのこの収穫だから、意義はそれなりに大きいと思う。
ただ、主要人物の三人が、それぞれに独立した人格として存在感を発揮している、ということではないのかも。成り立ちが暗示的な物語であって、その中で、登場人物たちは各自の役割を果たしている感じ。活き活きとした人間模様が浮かび上がってくる、なんてことはない。
また、登場人物のキャラ設定を見ると、それぞれに傷を抱えているけれど、ポテンシャルの高い人物ばかり。そういう設定にしたほうが物語を回しやすいということはあるのかもしれないけれど、作者の好みなのだろう。
いずれにしても、三人称視点による語りが磨き上げられたことで、村上ワールドが大きな変革を迎えた、という感覚はしない。一人称語りのときと同じ閉じた世界を、異なる切り口から眺めるような感じ。
これは良い悪いとは別のこと。
リトル・ピープル、ドウタ、マザ、パシヴァ、レシヴァ、2つの月といったような、暗示的な設定があちこちに配されている。しかし、それらに託された意味みたいなものを考察しなかった。
たとえば『ねじまき鳥クロニクル』では、含意を読み取らないことには読んだことにならないと思わされて、あれこれ頭をひねった。
『1Q84』にそういうところはない。なにしろ、主要人物の3人とも、最終的には舞台からいなくなってしまうわけで、架空の物語世界と片付けてしまったって何ら支障のない作りになっている。
わたしとしては、お言葉に甘えて、考えることをしなかった。
そういう読み方をすると、ちょっと影のある、ボーイ・ミーツ・ガールの後日談、という感触の小説になるのだろうか。
カップルの女性の方がたくましくて、男性は受身でヘタレ気味という設定は、ライトノベルにありがち。『1Q84』はライトな小説ではないけれど、軟派な娯楽小説ではあるかもしれない。
いずれにしても、これだけの長編を一気に読まされたから、おもしろいことは間違いない。
- 2013-06-22 14:07:37
- 村上春樹
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小市民シリーズの第3弾は、上下の2分冊。
このシリーズは、青春小説として人間模様を描く面と、ライトだけどそこそこ本格的なミステリーの面があると思う。
これの両立は難しいと思う。
というのは、ミステリー色を強めていくと、読者との駆け引き故に、登場人物の描写は抑制的になってしまうから。人間模様の描かれ方としては薄くなってしまいがち。
『秋期限定栗きんとん事件』は、わりと地で行っているかも。
事件の解決が、小鳩と小佐内の和解とか、「小市民」的でない自分たちを受け入れるとかにつながる展開はよく考えられていると思う。前作と同じパターンではあるけれど。
しかし、人間模様を楽しむには描かれ方が薄いので、読んでいて入り込めない。
上に書いた理由がなくても、そもそも人間描写が弱いのかもしれない。小鳩と小佐内がそれぞれ別の異性と交際するあたり、単に型どおり進行していくだけ。紋切り調で味気ない。
少なくとも小鳩の交際の方は、ミステリーの展開に関わっていないから、小説的にもっとおもしろくできるはずだと思うのだけど。
また、このシリーズにおける「小市民」の定義があいまいになりつつあるように感じる。クラスという集団に埋没することが「小市民」的であるというのは分かるけれど、たとえばクラスメートの顔と名前を覚えないことが「小市民」的なのだろうか?
もともと、二人が「小市民」でありたいと望む動機の描かれ方は弱かった。そのうえに、「小市民」の定義がグダグダになってきた感じ。




- 2012-12-30 20:06:11
- 米澤穂信
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小市民シリーズの2作目。
これ単体で読むと、おもしろさも納得感もそれなりにある。
しかし、シリーズものとしてはどうなのだろう。「読者との駆け引き」と言ってしまえばそれまでだけど、それにしてもヒロイン?小佐内嬢のキャラの継続性に疑問を感じる。
シリーズ1作目を読んだ者にとっては驚きの展開になっているし、主役の二人の駆け引きはスリリングだけど、その代償に彼女のキャラが便利に使いまわされている感じで、ちょっとマイナス。
シリーズ物の魅力の中には、キャラの魅力の割合が大きいと思う。こういうことをやられると、次回作への期待感が微妙に揺らいでしまう。
まあでも、細かいところに目をつぶると、この作家のサービス精神は楽しい。
事件の真相解明が、そのまま小市民として生きようとする二人の暗雲につながっていく、という仕掛けはうまいと思う。


- 2012-12-14 02:06:12
- 米澤穂信
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